貧困と格差の解消!ベーシックインカムとは何か?社会保障制度 3万文字 第1章

 

第1章 ベーシックインカムとは何か

ベーシックインカムの定義と概念

ベーシックインカム(Basic Income)、あるいはユニバーサル・ベーシック・インカム(Universal Basic Income, UBI)は、政府が全ての国民に対して無条件で定期的に一定額の現金を支給する社会保障制度のことを指します。
ベーシックインカムには、以下のような特徴があります。

普遍性(Universality)国籍、年齢、性別、雇用状況、所得水準などに関わらず、全ての国民を対象とする。これにより、特定の集団を優遇したり、差別したりすることがなくなります。
無条件性(Unconditionally)就労要件や資力調査など、受給のための条件を設けない。これにより、福祉の罠(失業手当などの受給条件のために就労意欲が損なわれること)を回避することができます。
個人単位(Individuality)世帯ではなく、個人を対象とする。これにより、世帯内の収入の偏りや、家族関係の変化(結婚、離婚など)に影響されずに、個人の尊厳が守られます。
定期性(Regularity)毎月や毎年など、定期的に支給される。これにより、将来に対する見通しを持つことができ、長期的な生活設計が可能になります。
現金給付(Cash Payment)現物給付ではなく、現金で支給される。これにより、個人の自由な選択が尊重され、必要に応じて柔軟に資金を活用することができます。

ベーシックインカムは、従来の社会保障制度とは異なり、事前の予防的措置として機能します。失業や貧困に陥る前から、全ての国民の基本的な生活を保障することを目的としています。
従来の社会保障制度は、失業や病気、障害など、特定のリスクに対して事後的に対応するものでした。一方、ベーシックインカムは、そのようなリスクが発生する前から、全ての国民に対して予防的に所得を保障するものです。
これにより、個人の生活の安定性が高まり、将来に対する不安が軽減されることが期待されます。また、ベーシックインカムによって、失業や貧困に陥るリスクを減らすことで、社会全体のセーフティネットが強化されることも期待されます。

さらに、ベーシックインカムは、社会的包摂(ソーシャル・インクルージョン)の理念に基づいています。社会的包摂とは、全ての国民が社会の一員として尊重され、社会参加の機会を得ることを重視する考え方です。
ベーシックインカムは、所得の多寡に関わらず、全ての国民に対して一定の所得を保障することで、社会的包摂を実現しようとするものです。これにより、貧困や格差によって社会的に排除されがちな人々も、社会の一員として尊重され、社会参加の機会を得ることができるようになります。
また、ベーシックインカムは、個人の自由と自律を尊重する考え方とも結びついています。経済的な不安から解放されることで、人々は自分の意思で仕事や活動を選択することができるようになります。これは、個人の自由と自律を促進するものだと言えます。
ただし、ベーシックインカムにも課題があります。まず、財源の問題です。全ての国民に対して定期的に現金を給付するためには、膨大な財源が必要になります。これをどのように確保するかが大きな課題となります。
また、ベーシックインカムが労働意欲を損なうのではないかという懸念もあります。無条件で現金が給付されることで、働くインセンティブが失われるのではないかという指摘です。
さらに、ベーシックインカムの給付水準をどの程度に設定するかも重要な問題です。あまりに低い水準では、十分な生活保障にならない一方で、高すぎる水準では財政的に持続可能性が問題となります。
このように、ベーシックインカムには様々な課題がありますが、同時に、従来の社会保障制度の限界を克服し、より包摂的で自由な社会を実現するための有力な選択肢の一つだと考えられています。
ベーシックインカムの議論は、単に経済的な問題にとどまらず、私たちがどのような社会を目指すのかという根本的な問いに関わるものです。ベーシックインカムを通じて、社会のあり方や個人の生き方について、深く考えることが求められています。

ベーシックインカムで労働意欲の低下
一定額の現金が無条件で支給されるため、「働かなくても生活できる」と考え、労働意欲が低下する恐れがあります。特に若年層で顕著になる可能性があり、生産年齢人口の減少につながるおそれがあります。
フリーライダー問題
ベーシックインカムを受給しながら、納税義務を果たさない「フリーライダー」が増える可能性があります。社会的な公平性が損なわれかねません。
財源確保の困難さ
ベーシックインカムには莫大な財源が必要ですが、増税だけでは限界があります。財源確保が困難な場合、制度の持続可能性に課題が生じます。
受給資格の公平性
受給資格の線引きが難しく、制度の狭間で不公平が生じる恐れがあります。例えば、一定の所得基準を設けた場合、基準値の近くで受給資格の有無に大きな差が生じます。
ベーシックインカム 労働意欲を損なわない可能性
世界銀行の報告によると、過去のBI導入例(モンゴル、イラン、アラスカ州)では、労働供給にマイナスの影響はなかったと評価されている。
フィンランドの2017-18年の実証実験では、BIの受給者の幸福感が高まるなどプラス効果があったと報告されている。
支給額が十分大きくなかったケースが多かったため、労働意欲を失わせる結果にはならなかった可能性がある。
労働意欲を損なう懸念
BIの支給額が大きすぎると、就労意欲を損なうおそれがあると指摘されている。
一部には「ばらまき政策だ」という批判や、人々の労働意欲を失わせるのではないかという懸念の声もある。

ベーシックインカムの歴史的背景

ベーシックインカムの理念は、18世紀のトマス・ペインの著作にまで遡ることができます。ペインは、イギリスの思想家で、アメリカ独立戦争にも影響を与えた人物です。
1797年に出版された『アグラリアン・ジャスティス』の中で、ペインは以下のように主張しました。
「土地は、もともと全ての人々に属するものであり、私有化されることで不平等が生じている。この不平等を是正するために、土地の私有化によって利益を得た人々は、その一部を社会に還元すべきである。具体的には、全ての国民に対して、無条件で一定額の現金を給付すべきである」
ペインのこの主張は、現代のベーシックインカムの原型とも言えるものです。ペインは、私有財産制度によって生じる不平等を是正するための手段として、ベーシックインカムを提案したのです。
ペインの提案は、当時は実現されませんでしたが、その理念は後の思想家たちに引き継がれていきました。
20世紀に入ると、ベーシックインカムの概念は、さまざまな思想家や運動によって発展させられました。
例えば、イギリスの経済学者ジョン・メイナード・ケインズは、1930年に出版された『経済的可能性の将来』の中で、以下のように述べています。
「将来的には、技術の進歩によって、人々は必要最低限の生活を保障された上で、自由に活動できるようになるだろう。週15時間程度の労働で、十分な生活水準を維持できるようになるかもしれない」
ケインズは、技術の進歩によって生産性が向上し、労働時間が短縮されることを予測しました。そして、そのような社会においては、全ての人々に対して必要最低限の生活を保障することが可能になると考えたのです。

ケインズの予測は部分的に正しかったと言えます。
技術の進歩により生産性は大幅に向上しましたが、週15時間労働という点では予測が外れています。 現代社会でも、フルタイム労働者の平均労働時間は週40時間前後が一般的です。
一方で、ケインズが指摘した通り、技術の進歩により経済成長が促され、多くの国で生活水準が向上しました。 先進国を中心に、一定の所得保障制度が整備され、貧困層への最低限の生活保護が行われるようになりました。ただし、所得格差の問題は依然として残されています。
つまり、ケインズの予測は部分的に的中しましたが、週15時間労働という点では現実とはかけ離れていたと言えます。技術の恩恵を受けつつも、労働時間の大幅な短縮には至っていないのが現状です。

1960年代から70年代にかけては、アメリカを中心に、ネガティブ・インカム・タックス(Negative Income Tax, NIT)の実験が行われました。
NITは、一定の所得水準以下の人々に対して、所得税を負の値(つまり、給付金)にすることで、現金を支給する制度です。この制度は、ベーシックインカムと類似した効果を持つものとして注目されました。
NITの実験は、アメリカの経済学者ミルトン・フリードマンによって提唱されました。フリードマンは、自由主義的な立場から、政府の介入を最小限に抑えつつ、貧困問題に対処するための方法としてNITを提案したのです。
NITの実験は、アメリカのいくつかの地域で実施され、一定の成果を上げました。しかし、同時に、労働意欲の低下などの課題も指摘されました。結局、NITは全国的な制度としては導入されませんでしたが、ベーシックインカムの議論に大きな影響を与えました。
1980年代以降は、ヨーロッパを中心に、ベーシックインカムに関する議論が活発化しました。

ドイツにおけるベーシックインカム実証実験は、2021年から開始され、120人の参加者に対して3年間、月1200ユーロ(約15万円)のベーシックインカムを支給するものです。この実験は、ドイツ経済研究所(IW)とNPO法人「マイン・グルントアインコメン(MG)」の共同によるもので、財源は一般の寄付から拠出されます。
実証実験の目的と参加資格
実証実験の目的は、ベーシックインカムの効果を明らかにすることです。
参加資格は、ドイツに住民票のある18歳以上の市民で、ドイツ国籍の有無は問われません。
実証実験の成果
実証実験の成果は、参加者が生活の安定性を高める効果や、就労意欲の変化などを調査することです。
これまでの実験結果は、ベーシックインカムを受給することで、参加者が経済的不安を取り除くことができ、生活の質が向上することが示されています。
批判と課題
実証実験には、信ぴょう性が低いとの批判があります。
また、ベーシックインカム導入によって「就労意欲の低下」を招くとの懸念もあります。
将来の展望
ドイツにおけるベーシックインカムの導入は、将来の社会保障モデルとしての可能性が高く、2021年以降の実証実験が世界に先駆けての新たな社会保障モデルとなるかどうかが注目されています。
B-MINCOME
フィンランドやオランダの実験との類似点 フィンランドやオランダの実験では、給付の条件や稼働所得に応じた給付の減額を緩和する点でベーシックインカム的な面がある。
バルセロナ市の実施 バルセロナ市では2017年から2019年までB-MINCOMEを実施し、困窮地域を対象として月15万円の無条件給付を行った。
2016年6月5日、スイスでベーシックインカム(Basic Income, BI)の導入を問う国民投票が行われました。国民投票は、スイスの直接民主制に基づいており、10万人の署名が集まれば実施されるものです。
この国民投票では、スイス政府が無条件で月27万円(2500スイスフラン)を支給するベーシックインカムの導入を賛否問うものでした。結果は、賛成票が23%にとどまり、導入は否決されました。
スイスのベーシックインカム導入の賛否を問う国民投票は、世界初の国民投票であり、国際的にも注目を集めました。国民投票の結果は、財源不足や国民が働かなくなることへの不安が強かったことが影響したと考えられます。

このように、ベーシックインカムの議論は、18世紀のペインの提案から始まり、20世紀以降、徐々に発展してきました。特に1980年代以降は、ヨーロッパを中心に、ベーシックインカムの導入を目指す具体的な運動が展開されるようになりました。
これらの運動は、従来の社会保障制度の限界を指摘し、より普遍的で無条件の支援の必要性を訴えてきました。同時に、ベーシックインカムによって、個人の自由と尊厳が守られ、より包摂的な社会が実現できるとの期待も示されてきました。
ただし、ベーシックインカムの導入には、財源の問題や労働インセンティブへの影響など、様々な課題があることも指摘されています。ベーシックインカムの実現可能性や具体的な制度設計については、今後も慎重な検討が必要とされています。

財源確保の課題
ベーシックインカムを全国民に支給するには莫大な財源が必要となり、その確保が最大の課題です。 例えば、国民年金相当額を全国民に支給する場合、年間約100兆円の財源が必要とされています。増税や既存の社会保障制度の見直しなどによる財源確保が不可欠です。
労働インセンティブへの影響
ベーシックインカムの無条件支給は、労働意欲を低下させるリスクがあると指摘されています。 しかし、フィンランドの実験では労働意欲への影響はほとんどなかったという結果もあります。 適切な支給水準の設定や、就労支援策との組み合わせが重要でしょう。
段階的導入の選択肢
全国民一律支給は現実的ではないため、高齢者や児童など対象を限定した段階的導入が検討されています。 高齢者向けベーシックインカムは、年金制度の代替として提案されており、世代間の不公平是正が期待できます。 対象を限定すれば、財源確保や労働インセンティブへの影響も和らぐ可能性があります。

ベーシックインカムが注目される理由

近年、ベーシックインカムが注目される理由としては、大きく分けて以下の5つが挙げられます。

技術革新による雇用の変化

第4次産業革命とも呼ばれる技術革新が進む中で、AIやロボット工学の発展により、多くの職業が自動化される可能性が指摘されています。

AIに特定の既存の作品群を集中的に学習させていた場合、生成AIの利用者が、AIを利用して生成された画像等に類似する具体的な既存の著作物が学習用データとして利用されていることを知らなくても、依拠性が認められる可能性がある。

生成AIの開発・学習段階で当該著作物を学習していた場合については、客観的に当該著作物へのアクセスがあったと認められることから、当該生成AIを利用し、当該著作物に類似した生成物が生成された場合は、通常、依拠性があったと推認され、AI利用者による著作権侵害になりうると考えられる。

著作権法第30条の4の権利制限規定は、「当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態
様その他の事情を考慮して、著作権者の利益を不当に害することとなる場合」には適用されない。

したがって、特定の作品群を集中的に学習させたAIが生成した画像等は、著作権者の利益を不当に害することとなる場合に該当する可能性が高く、著作権法第30条の4の権利制限規定の適用外となり、著作権侵害に該当する可能性が高いと考えられます。

著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的とする場合は著作権者の許諾が必要です 享受させる場合のAI無断学習は合法ではありません

例えば、自動運転技術の発展により、トラックやタクシーの運転手の仕事が失われる可能性があります。また、工場の生産ラインや事務作業なども、AIやロボットによって代替される可能性が高まっています。
このような技術革新によって、大量の失業者が発生し、所得格差が拡大することが懸念されています。実際、アメリカでは、1990年代以降、中間所得層の雇用が減少し、所得格差が拡大しているとの指摘があります。
これに対して、ベーシックインカムは、失業リスクが高まる中で、全ての国民の生活を保障するためのセーフティネットとして注目されているのです。
ベーシックインカムによって、たとえ仕事を失った場合でも、一定の所得が保障されることで、生活の安定性が高まることが期待されます。また、ベーシックインカムがあれば、個人は必ずしも収入を得るための仕事に縛られる必要がなくなります。このため、自分の意思で、新しい技術の習得やスキルアップに時間を割くことができるようになります。
ベーシックインカムは、単に失業者を救済するだけでなく、技術革新に適応するための個人の主体的な取り組みを支援する制度としても期待されているのです。

所得格差の拡大
アメリカの所得格差は、1970年代半ば以降に拡大し始めました。特に、1980年代以降は格差が顕著に拡大し、現在では先進諸国の中で最も大きい水準に達しています。
税制の影響
2001年の「経済成長・租税救済法」では、高所得者の企業年金の税制優遇措置が拡大されました。これにより、年金給付全体の累進制が後退し、高所得層に利益が集中するようになりました。
雇用構造の変化
アメリカの雇用構造には、若年層の失業率が高く、高齢層の失業率が低いという特徴があります。これは、経済の構造的な変化や技術の進歩に伴う職種の変化が影響していると考えられます。
社会保障の再分配機能
アメリカの社会保障制度は、所得控除や税額控除を通じて低所得層を支援していますが、同時に高所得層にも利益が流れているため、所得格差の縮小には効果が限られています。
雇用への影響
技術革新は新しい雇用機会を生み出す一方で、既存の職を置き換える可能性があります。自動運転車の普及により、運転手の仕事が減少する代わりに、ソフトウェア開発や車両の保守・管理などの新しい職種が生まれると予想されています。 しかし、全体として雇用が減少する可能性は否定できません。
所得格差の拡大
大量の失業者が発生すれば、所得格差が拡大する恐れがあります。 新しい技術に適応できる人々と、そうでない人々の間で格差が開く可能性があるためです。
対策の必要性
このような課題に対処するには、失業者の再教育や新しい雇用機会の創出など、様々な対策が必要不可欠です。 政府や企業、教育機関などが連携し、技術革新による影響を最小限に抑える取り組みが求められています。
企業は優秀な人材を惹きつけるために、人材育成力や職業能力開発力を高める必要に迫られる。
個人は学び続けることで、必ず活躍し続けられ、報酬も増えるという確信を持てる。
企業は生き残ることを自己目的化するのではなく、必要とされる存在として変わり続けなければならない。
職業能力の可視化の重要性
一方で、職業能力の可視化が重要になります。
環境変化が激しいなか、多様な職業の能力とその価値をキャッチアップしていくことが課題。
ビッグデータなどのIT活用により、市場を広くリサーチし、職業能力を可視化することが期待される。
職業能力の可視化は個人の成長を促すインフラにもなる。
つまり、ベーシックインカムにより個人は自由に学び直しができるようになる一方で、職業能力の可視化を通じて、どの能力が求められているかが明確になり、効率的な労働市場が生まれると考えられています。

グローバル化による不安定雇用の増加

グローバル化の進展により、企業の国際競争が激化し、企業の海外移転や工場の閉鎖が増加しています。これに伴い、非正規雇用や派遣労働など、不安定な雇用形態が増加しています。
日本でも、1990年代以降、非正規雇用の割合が増加し、2020年には全雇用者の約40%を占めるに至っています。非正規雇用は、正規雇用と比べて、雇用が不安定で、賃金も低い傾向があります。
このような不安定な雇用状況の中で、個人の生活を守るためのセーフティネットとして、ベーシックインカムへの期待が高まっています。
ベーシックインカムがあれば、たとえ非正規雇用であっても、一定の所得が保障されるため、生活の安定性が高まります。また、ベーシックインカムによって、個人の交渉力が高まることで、雇用条件の改善につながる可能性もあります。
さらに、ベーシックインカムがあれば、個人は必ずしも不安定な雇用に縛られる必要がなくなります。このため、自分の意思で、よりやりがいのある仕事を探したり、起業に挑戦したりすることができるようになります。
グローバル化がもたらす雇用の不安定化に対して、ベーシックインカムは、個人の生活と尊厳を守るための重要な選択肢の一つとなりつつあります。

1990年代以降、日本でも非正規雇用の割合が確実に増加してきました。
総務省統計局の「労働力調査」によると、2020年の非正規雇用者数は2,122万人で、全雇用者に占める割合は38.2%に達しています。
非正規雇用者は、正規雇用者に比べて賃金水準が低く、雇用が不安定な傾向にあります。
正規雇用の減少と非正規雇用の増加
正規雇用者数が減少する一方で、非正規雇用者数が増加している
企業は人件費削減や雇用調整のため、非正規雇用を活用している
非正規雇用者の定着性が低いため、企業は非正規雇用者の雇用に問題があると指摘している
派遣労働者の増加
労働者派遣事業の規制緩和により、派遣社員の比率が上昇している
若年層の厳しい雇用情勢
若年層の失業率は依然として高水準にある
正規雇用を希望する非正規雇用の若年層が多数いる
フリーターなど非正規雇用から正規雇用への移行が困難になっている
このように、企業の構造調整は正規雇用の減少と非正規雇用の増加をもたらし、特に若年層の雇用環境を悪化させています。企業は人件費削減のため非正規雇用を活用していますが、その結果、雇用の不安定化が進行しています。

社会保障制度の限界

既存の社会保障制度は、失業保険や生活保護など、特定の条件下で支援を提供するものです。しかし、これらの制度には、以下のような限界があることが指摘されています。
まず、失業保険は、一定期間の雇用と保険料の支払いを条件としているため、非正規雇用者や自営業者などは十分な保護を受けられない可能性があります。また、失業保険の給付期間は限定されているため、長期の失業には対応できません。
生活保護は、最後のセーフティネットとして位置づけられていますが、受給要件が厳しく、また、受給者に対する社会的なスティグマ(恥辱感)が強いため、本当に支援を必要とする人々に十分な援助が行き届いていないという問題があります。
さらに、既存の社会保障制度は、縦割り的で複雑な仕組みとなっているため、利用者にとってわかりにくく、また、行政にとっても運営コストが高くなっているという課題もあります。
これに対して、ベーシックインカムは、全ての国民に対して無条件で給付されるため、このような既存の社会保障制度の限界を克服することができると期待されています。
ベーシックインカムは、雇用形態や個人の属性に関わらず、全ての国民の生活を保障するものです。このため、失業保険のような加入条件や給付期間の制限はありません。また、生活保護のような受給要件もないため、社会的なスティグマも生じにくいと考えられます。
さらに、ベーシックインカムは、シンプルな制度設計が可能であるため、利用者にとってもわかりやすく、また、行政コストも削減できる可能性があります。
ただし、ベーシックインカムを導入する場合、既存の社会保障制度との関係性を整理する必要があります。ベーシックインカムと既存の制度を組み合わせることで、より効果的で効率的な社会保障制度を設計することが求められます。

非正規雇用者や自営業者の保護が不十分
雇用保険の適用対象は、週所定労働時間が20時間以上の労働者に限定されています。そのため、パートタイム労働者や派遣労働者など、非正規雇用者の多くは適用除外となっています。また、自営業者や個人事業主も原則適用外です。これらの労働者は失業時の保護が十分に受けられない可能性があります。
一定期間の雇用と保険料支払いが必要
失業給付の受給には、離職日前1~2年間に一定期間(6~12か月)の被保険者期間が必要です。そのため、短期間の雇用歴しかない労働者は給付を受けられません。また、保険料を支払っていない期間は給付対象外となります。
給付期間が限定的
失業給付の支給期間は、被保険者期間や年齢などによって30日~330日に制限されています。そのため、長期の失業状態が続く場合、生活の安定を図るのが難しくなります。

貧困と格差の解消

先進国を中心に、所得格差の拡大と貧困の固定化が社会問題となっています。
例えば、アメリカでは、1980年代以降、所得格差が拡大傾向にあり、特に富裕層への富の集中が進んでいます。また、貧困率も1960年代以降、ほとんど改善されていません。
日本でも、1990年代以降、所得格差が拡大傾向にあり、特に若年層や高齢者、シングルマザーなどで貧困率が高くなっています。
このような状況に対して、ベーシックインカムは、全ての国民に一定の所得を保障することで、貧困と格差の解消に寄与すると期待されています。
ベーシックインカムによって、全ての国民の所得が一定水準以上に保障されることで、絶対的な貧困は解消されます。また、ベーシックインカムは、所得再分配の効果があるため、所得格差の縮小にも寄与すると考えられます。
さらに、ベーシックインカムは、個人の尊厳を守るための基盤となります。ベーシックインカムがあれば、たとえ低所得であっても、人間らしい生活を送るための最低限の資金が保障されます。これは、全ての国民の尊厳を守るための重要な施策だと言えます。
ただし、ベーシックインカムが貧困と格差の解消に寄与するためには、その給付水準が十分である必要があります。あまりに低い水準では、貧困の解消には不十分です。一方で、高すぎる水準では、財政的な持続可能性が問題となります。ベーシックインカムの適切な給付水準については、慎重な検討が必要とされています。

富裕層優遇の所得税制
アメリカの所得税制は富裕層に有利な構造になっており、富裕層と低・中間所得者層との差が広がり続けています。
市場原理主義
アメリカは市場原理主義を推進しており、政府は市場や個人の行動への介入を基本的に避けます。これにより、社会保障制度が最小限に留まり、公的医療保険も整備されていない状況が続いています。
新型コロナウイルスの影響
新型コロナウイルスのパンデミックは低所得者層に大きな打撃を与え、富裕層は株価の上昇によって資産価値が増加し、国内での所得格差がさらに広がりました。
これらの要因がアメリカの所得格差拡大の主な原因となっています。
日本では1990年代以降、所得格差の拡大と貧困率の上昇が見られ、特に若年層、高齢者、ひとり親世帯などの貧困化が進んでいます。
主な要因
1990年代から2000年代にかけて、若年層の雇用が不安定化し、賃金が大幅に低下したこと
子育て世帯に対する公的支援が不足し、子育て費用が増加したこと
単身世帯、高齢者単身世帯、ひとり親世帯が増加傾向にあること
学歴と所得の相関が高く、中卒や高校中退者の貧困リスクが高まっていること
貧困は世代間で連鎖する傾向にあり、子どもの頃から経済的に不利な環境に置かれると、将来の就労や自立に悪影響を及ぼします。

自己実現とウェルビーイングの向上

ベーシックインカムは、個人の自己実現とウェルビーイング(幸福度や生活の質)の向上にも寄与すると期待されています。
従来の社会保障制度は、主に物質的な支援に重点を置いてきました。しかし、人間の幸福には、物質的な豊かさだけでなく、自己実現や社会的つながりなど、様々な要素が関わっています。
ベーシックインカムは、全ての国民に無条件で一定の所得を保障することで、個人の選択の自由を拡大します。経済的な不安から解放された個人は、自分の価値観に基づいて、より自由に生き方を選択できるようになります。
例えば、ベーシックインカムがあれば、個人は必ずしも収入を得るための仕事に縛られる必要がなくなります。このため、自分の関心や才能に基づいて、ボランティアやNPO活動に取り組んだり、芸術や文化活動に専念したりすることが可能になります。
また、ベーシックインカムによって、個人の交渉力が高まることで、よりやりがいのある仕事を選択したり、労働条件の改善を求めたりすることもできるようになります。
さらに、ベーシックインカムは、社会的つながりの強化にも寄与すると考えられます。経済的な理由で社会参加が制限されていた人々も、ベーシックインカムによって、地域活動やボランティア活動に参加しやすくなります。これは、社会的孤立の防止や、コミュニティの活性化につながることが期待されます。
ただし、ベーシックインカムが自動的に個人の自己実現やウェルビーイングの向上につながるわけではありません。ベーシックインカムは、あくまでもその基盤となる制度であり、それを活用するかどうかは個人の選択に委ねられています。
また、自己実現やウェルビーイングには、経済的な要素だけでなく、教育や健康など、様々な要素が関わっています。ベーシックインカムと並行して、これらの分野での施策も求められます。

貧困解決や対策につながる ベーシックインカムが得られることで、多くの国民は最低限の生活を維持できるようになります。生活は苦しいが、働いているため社会保障を受けられない層も受け取ることができ、プラスで労働による収入を得ることで生活にゆとりのある人々が増えることが期待できます。
少子化の解消が期待できる ベーシックインカムは個人に支給されるため、子どもにも支給されます。そのため、金銭面の不安を理由に子どもを持てなかった人々が増えることが期待できます。
労働環境が改善される ベーシックインカムが導入されると、労働環境が改善されることが期待されます。特に、低所得者層や非正規雇用者が増加している日本社会においては、労働環境の改善が重要です。
多様な生き方が可能になる ベーシックインカムがあれば、個人は自由に自分の生き方を選択できるようになります。例えば、ボランティアやNPO活動に取り組むことができるようになり、芸術や文化活動に専念することも可能になります。

ベーシックインカムの哲学的・倫理的基盤

ベーシックインカムの考え方は、以下のような哲学的・倫理的基盤に基づいています。

自由の保障

ベーシックインカムは、全ての国民に無条件で一定の所得を保障することで、個人の自由を拡大するものです。
古典的自由主義の思想家であるジョン・ロックは、個人の生命、自由、財産の権利は自然権であり、国家はこれらの権利を守るために存在すると考えました。ベーシックインカムは、この自由の権利を経済的な側面から保障するものだと言えます。
ベーシックインカムによって、全ての国民は、最低限の経済的基盤を得ることができます。これにより、個人は経済的な強制から解放され、自分の意思で生き方を選択できるようになります。
例えば、ベーシックインカムがあれば、個人は必ずしも嫌な仕事に従事する必要がなくなります。また、ベーシックインカムを基盤として、自分の関心や才能に基づいて、新しいことにチャレンジすることもできるようになります。
このように、ベーシックインカムは、個人の自由を実質的に保障するための制度だと言えます。それは、単に形式的な自由ではなく、経済的な基盤に裏打ちされた実質的な自由を目指すものです。
ただし、ベーシックインカムが個人の自由を保障するためには、その給付水準が十分である必要があります。あまりに低い水準では、実質的な自由の保障にはつながりません。ベーシックインカムの適切な給付水準をどのように設定するかは、重要な課題の一つです。

社会課題解決型の仕事の増加
ベーシックインカムにより、生活の最低限は保証されるため、より社会貢献度の高い仕事に従事する人が増えると考えられます。例えば、貧困や環境問題、教育格差など、社会が抱える課題解決に取り組む非営利団体や社会企業での仕事が注目を集めるでしょう。
クリエイティブな仕事の増加
生活の心配なく自由に過ごせるようになれば、趣味や特技を活かしたクリエイティブな仕事に挑戦する人も増えるかもしれません。アーティスト、クリエイター、発明家など、自由な発想を仕事に活かせる分野での新しい才能の発掘が期待できます。
地域貢献型の仕事の増加
ベーシックインカムにより、地域に根ざした活動に専念できる人が増えるでしょう。例えば、高齢者や障がい者の見守り、子育て支援、伝統工芸の継承など、地域の絆を深める仕事が生まれる可能性があります。

平等の実現

ベーシックインカムは、全ての国民に対して平等に給付されるため、機会の平等を実現する手段となります。
現代社会では、家庭の経済状況などによって、個人の機会が大きく左右されています。例えば、貧困家庭の子どもは、十分な教育を受ける機会を得られず、その結果、社会的な不利益を被ることがあります。
ベーシックインカムは、このような機会の不平等を是正するための施策の一つです。ベーシックインカムによって、全ての国民が一定の経済的基盤を得ることで、家庭の経済状況に左右されない機会の平等が実現されます。
また、ベーシックインカムは、所得再分配の効果もあります。現代社会では、所得と富の偏在が問題となっていますが、ベーシックインカムは、富裕層から貧困層への所得移転を実現することで、所得格差の是正にも寄与します。
ただし、ベーシックインカムが機会の平等を実現するためには、教育や医療など、他の分野での施策も並行して行う必要があります。ベーシックインカムは、あくまでもその基盤となる制度であり、それだけで完全な平等が実現されるわけではありません。

ベーシックインカムの導入効果
所得の再分配機能から高所得層から低所得層への所得移転が起き、国民経済全体としての消費需要が高まり景気が活性化する可能性
働いていても十分な収入が得られない人や不安定な就労環境にある人々の生活の安定につながる
格差が広がる社会において、収入の安定や労働環境の改善などの問題解決に有効な手段の1つとなる
一方で、ベーシックインカムの導入には以下のような課題もあります
国民全員に毎月一定額を支給するには膨大な財源が必要で、増税などの対策が不可欠
財源確保のための増税や他の制度の廃止などに対して国民の合意を得ることが難しい
所得制限つきの場合、制限水準近傍での勤労者のモラルハザードが発生する可能性がある

社会正義の追求

ベーシックインカムは、社会正義の観点からも正当化されます。
社会正義とは、社会的な利益や負担を公正に分配することを目指す考え方です。ジョン・ロールズの正義論によれば、社会正義は以下の2つの原理に基づいています。
第一原理 平等な自由の原理。全ての個人は、平等な基本的自由を持つべきである。
第二原理 格差原理。社会的・経済的な不平等は、最も不遇な人々の利益を最大化するように調整されるべきである。

ロールズは、原初状態で合意される正義の二原理を提唱しました。
第一原理 平等な自由の原理
全ての人は、基本的自由に対する平等な権利を持つ
基本的自由には、良心の自由、思想と良心の自由、政治的自由、表現の自由、集会の自由、宗教の自由、所有権に関する自由などが含まれる
第二原理 格差原理
社会的・経済的不平等は、以下の条件を満たす場合にのみ正当化される
(a) 地位や職業に対する機会が公平に開かれていること
(b) 最も不利な立場にある人々の最大の利益となるよう調整されていること
格差原理は、社会的・経済的不平等を完全に排除するのではなく、最も恵まれない人々の利益を最大化するよう調整することを求めています。
また、ロールズは正義の二原理が反照的均衡に至ることを示しました。つまり、原初状態で合意された原理が、実際の社会制度を正当化し、社会の基本構造を規制する原理となるのです。

ベーシックインカムは、これらの社会正義の原理に適合的な制度だと言えます。
まず、ベーシックインカムは、全ての国民に無条件で給付されるため、平等な自由の原理に適合しています。ベーシックインカムによって、全ての国民は、最低限の経済的自由を保障されます。
また、ベーシックインカムは、格差原理にも適合しています。ベーシックインカムは、所得再分配の効果があるため、社会的・経済的な不平等を是正する方向に作用します。特に、ベーシックインカムは、最も不遇な人々の生活を改善するための施策だと言えます。
ただし、ベーシックインカムが社会正義を実現するためには、その財源をどのように確保するかが重要な問題となります。ベーシックインカムの財源を富裕層への増税で賄う場合、社会正義の観点からは正当化されやすいですが、他方で、経済的な効率性の観点からは問題が生じる可能性もあります。

ベーシックインカムは、個人の尊厳を尊重し、自己実現の機会を提供します。 経済的な不安から解放され、学びや趣味など自己投資の時間を持つことができるようになります。 これは、個人の自由と尊厳を重視する社会正義の原理に合致しています。
さらに、ベーシックインカムは、貧困や少子化の解消にも役立ちます。 金銭面の不安を理由に子供を持てなかった人にとっても追い風となり、少子化の解消も期待できるでしょう。 これは、社会的弱者を支援し、社会の持続可能性を高める社会正義の原理に適合的です。
ただし、ベーシックインカムの導入には莫大な財源が必要とされており、 他の社会保障制度への悪影響が懸念されます。 これらの課題に対する具体的な解決策が見いだせなければ、ベーシックインカムの導入は難しいかもしれません。
以上のように、ベーシックインカムは平等な自由、個人の尊厳、社会的弱者への支援といった社会正義の原理に適合的な制度ですが、財源確保など乗り越えるべき課題もあります。 今後の議論と実験を通じて、ベーシックインカムの可能性と限界がより明らかになっていくことでしょう。

人間の尊厳の尊重

ベーシックインカムは、全ての人々の人間としての尊厳を尊重する考え方に基づいています。
人間の尊厳とは、全ての人間が生まれながらにして持つ固有の価値のことを指します。カントの哲学では、人間は単なる手段ではなく、それ自体が目的として扱われるべき存在だと考えられました。
現代社会では、経済的な理由から、人間の尊厳が脅かされている状況があります。例えば、極度の貧困状態では、人間らしい生活を送ることが困難になります。また、過酷な労働条件の下では、人間が単なる手段として扱われてしまう危険性があります。

カントの哲学と現代倫理学の比較において、カントは人間を単なる手段ではなく、目的として扱われるべき存在と位置づけました。彼は、人間は自由で理性的な存在であり、自律的に行動し、選択することができるため、人間の存在そのものが尊重されるべきだと主張しています。
カントの倫理学は、現代倫理学においても重要な影響を与えています。特に、カントの法哲学は自然法思想に基づいており、現代の倫理学との接点を探ることができます。
また、カントの哲学は、現代の倫理学の問題に対処するための指針としても機能しています。例えば、カントの倫理学は、ビジネス、道徳教育、生殖・医療、環境問題、AI、差別問題など、現代社会で巻き起こるあらゆる倫理的な問題についての判断に役立ちます。
カントの哲学は、現代倫理学との比較において、以下のような特徴が見出されます。
自由と自律性 カントは、人間は自由で理性的な存在であり、自律的に行動し、選択することができるため、人間の存在そのものが尊重されるべきだと主張しています。
道徳の基準 カントは、普遍的な道徳の基準を理論立てた『実践理性批判』において、人間の内面に関心を寄せて評価する思想を提唱しています。
自然法思想 カントの法哲学は、自然法思想に基づいており、現代の倫理学との接点を探ることができます。

ベーシックインカムは、このような人間の尊厳を脅かす状況を改善するための施策の一つです。ベーシックインカムによって、全ての人々は、人間らしい生活を送るための最低限の経済的基盤を得ることができます。これは、全ての人々の尊厳を守るための重要な施策だと言えます。
また、ベーシックインカムは、人間を単なる労働力としてではなく、個人として尊重する考え方に基づいています。ベーシックインカムがあれば、個人は必ずしも収入を得るための仕事に従事する必要がなくなります。これは、人間を労働力としてではなく、それ自体が目的として扱うことを可能にするものです。
ただし、ベーシックインカムが人間の尊厳を尊重するためには、その給付水準が十分である必要があります。あまりに低い水準では、人間らしい生活を送ることは困難です。ベーシックインカムの適切な給付水準をどのように設定するかは、人間の尊厳の観点からも重要な課題です。

問題の背景には、経済成長の停滞や所得格差の拡大などがあります。日本では、経済成長が鈍化し、賃金が伸び悩んでいるため、相対的に貧しくなっている人が増えています。また、資本主義経済では、不況による失業や貧富の差の拡大といった矛盾が生じやすく、一部の人が富を独占してしまうこともあります。
一方、社会主義経済では、国家が介入して経済を管理するため、貧困問題は解決できるかもしれません。しかし、社会主義経済にも問題点があり、労働者の勤労意欲の減退や非効率な国家運営などの弊害が生じやすいのです。
このように、経済体制によって長所短所があり、貧困問題を根本的に解決するのは難しい面があります。
そのため、政府や自治体は、子どもの貧困対策や生活保護制度の充実など、貧困層への支援策を講じる必要があります

連帯と共生の精神

ベーシックインカムは、社会の構成員全員が互いに支え合い、共に生きていくための連帯と共生の精神を体現するものです。
連帯とは、社会の構成員が互いに結びつき、助け合う関係性のことを指します。共生とは、多様な人々が互いの違いを認め合い、対等な関係の下で共に生きていくことを指します。
ベーシックインカムは、全ての国民に無条件で給付されるため、社会の構成員全員が互いに支え合う関係性を作り出します。ベーシックインカムによって、全ての国民は、社会の一員として尊重され、必要な支援を受けられることが保障されます。
これは、社会的な連帯の精神を体現するものだと言えます。ベーシックインカムは、「自分だけが良ければいい」という利己的な考え方ではなく、「みんなが幸せになるためにはどうすればいいか」という利他的な考え方に基づいています。
また、ベーシックインカムは、多様な人々が共に生きていくための基盤となります。ベーシックインカムによって、経済的な理由から社会的に排除されていた人々も、社会の一員として包摂されることになります。
これは、共生の精神を体現するものだと言えます。ベーシックインカムは、多様な人々が互いを尊重し合い、対等な関係の下で共に生きていくことを可能にします。
ただし、ベーシックインカムが連帯と共生の精神を体現するためには、社会的な合意形成が必要です。ベーシックインカムに対しては、「自分で稼がずに楽をしようとする人を助長するのではないか」といった批判もあります。
このような批判に対しては、ベーシックインカムが単なる「施し」ではなく、社会の構成員全員が互いに支え合うための制度であることを丁寧に説明していく必要があります。また、ベーシックインカムと並行して、社会参加を促進するための施策を行うことも重要です。
以上のように、ベーシックインカムは、自由、平等、社会正義、人間の尊厳、連帯と共生といった哲学的・倫理的な価値に基づいています。これらの価値は、現代社会が目指すべき方向性を示すものだと言えます。
ベーシックインカムは、これらの価値を経済的な側面から実現するための具体的な施策の一つです。ベーシックインカムによって、全ての国民の基本的な生活が保障され、その上で、自由に生き方を選択できる社会が実現されることが期待されます。
ただし、ベーシックインカムにはデメリットもあります。最も大きな問題は、ベーシックインカムの財源をどのように確保するかということです。ベーシックインカムを全ての国民に支給するためには膨大な財源が必要であり、その財源を増税によって賄おうとすれば、国民の反発を招く可能性もあります。

ベーシックインカム(Basic Income, BI)とは、国から一定額の金額を定期的に、性別や年齢、所得水準などに基づかない形で支給する社会保障制度です。以下はその必要性についての要点です。

コロナ禍での有効性
新型コロナウイルス感染症の流行により、多くの国民が経済的な打撃を受けました。ベーシックインカムのような制度が整備されていれば、多くの国民の生活を守り、命を救うことが期待できます。

貧困の解消
ベーシックインカムは、貧困を解消するための有効な手段と考えられています。特に、低所得層に特に有効であり、生活の安定性を高める効果が期待できます。

経済の安定
ベーシックインカムは、経済の安定化にも役立つと考えられます。特に、経済が不安定な状況で、多くの国民が経済的な影響を受けている場合、ベーシックインカムのような制度が導入されれば、経済の安定化に寄与することが期待できます。

自由度の向上
ベーシックインカムは、人々の自由度を高める効果もあります。特に、不安定な仕事や低所得の生活を送る人々にとって、ベーシックインカムは、生活の安定性と自由度を高める効果があります。

世界の動向
世界的にベーシックインカムに関する議論が活発化しており、特定の都市や国で実験的に導入される例が増えています。例えば、アメリカのカリフォルニア州ロサンゼルス市やフィンランドなどで、ベーシックインカムの導入が行われています。

財源の問題
ベーシックインカムの導入には莫大な財源が必要とされており、その財源を確保するための問題が残っています。特に、日本では、ベーシックインカムの予算が国家予算のすべてを使いきる100兆円規模が必要となります。

また、ベーシックインカムを支給することで、勤労意欲が低下し、経済成長にマイナスの影響を及ぼすのではないかという懸念もあります。さらに、ベーシックインカムを受け取ることで満足してしまい、自己啓発や社会参加への意欲が失われるのではないかという指摘もあります。
したがって、ベーシックインカムの導入に際しては、このようなデメリットを最小限に抑えるための工夫が必要です。例えば、ベーシックインカムの支給額を適切に設定したり、ベーシックインカムと並行して教育や職業訓練などの施策を行ったりすることで、デメリットを抑制することが可能だと考えられます。
また、ベーシックインカムの導入には、社会的な合意形成が不可欠です。ベーシックインカムは、社会のあり方に大きな変革をもたらす可能性がある制度です。したがって、その導入には、国民的な議論を経て、社会的な合意を形成していく必要があります。
ベーシックインカムについては、今後も様々な観点から議論が行われていくことが予想されます。哲学的・倫理的な観点からは、上述のようなベーシックインカムの正当化根拠が提示される一方で、経済学的な観点からは、財源問題や勤労インセンティブへの影響など、ベーシックインカムの実現可能性をめぐる議論が行われています。
また、政治学的な観点からは、ベーシックインカムをめぐる政治的な対立構造や、ベーシックインカム導入に向けた政治的なプロセスなどが分析されています。社会学的な観点からは、ベーシックインカムが社会関係や社会構造に与える影響などが考察されています。
これらの多様な観点からの議論を踏まえつつ、ベーシックインカムの可能性と限界を冷静に見極めていくことが求められています。その上で、ベーシックインカムを、より自由で平等な社会を実現するための一つの選択肢として位置づけ、その実現に向けた具体的な方策を検討していく必要があるでしょう。
ベーシックインカムは、単に経済的な問題にとどまらず、私たちがどのような社会を目指すのかという根本的な問いに関わるテーマです。ベーシックインカムについての議論を通じて、自由、平等、社会正義といった価値について改めて考え、より良い社会のあり方を模索していくことが期待されます。

スペイン 2020年に新型コロナウイルス感染症の流行を受けて低所得者層向けのベーシックインカムの導入が決定されました。
アメリカ
カリフォルニア州ロサンゼルス市で、2022年に低所得者層向けのベーシックインカムの導入実験が行われました。
アラスカ州では「アラスカ恒久基金」という制度が実施されており、州民に年間1000~1500ドル程度の配当金を支給しています。
シカゴ 2021年10月にシカゴ市議会がベーシックインカム・プログラムを承認しました。
ドイツ、イタリア、オランダ 一部実験的に導入されていますが、完全なベーシックインカムとは言えない状況です。

ベーシックインカムと幸福・ウェルビーイングの関係性

ベーシックインカムは、個人の幸福やウェルビーイング(Well-being 良い状態にあること、幸福、福祉)の向上にも寄与すると期待されています。
伝統的な経済学では、幸福は主に所得や消費といった経済的な指標で測定されてきました。しかし、近年の幸福学(Happiness Studies)や、ウェルビーイング研究では、幸福やウェルビーイングには、経済的な要素だけでなく、健康、人間関係、自己実現など、様々な要素が関わっていることが明らかになっています。

投げ銭

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