第1章 現代社会における雇用問題の概観 GenerativeAIの悪影響
現代社会は、グローバル化、技術革新、少子高齢化など、様々な要因が複雑に絡み合い、労働市場に大きな変化をもたらしています。これらの変化は、雇用の不安定化、所得格差の拡大、社会的不公平感の高まりなど、深刻な雇用問題を引き起こしています。本章では、現代社会における雇用問題の全体像を概観し、その影響と解決に向けた課題について、考察します。
グローバル化が労働市場に与える影響
グローバル化の進展は、国境を越えた競争の激化をもたらし、企業に高い効率性と柔軟性を求めています。多国籍企業の進出や海外への生産拠点の移転は、国内の雇用を脅かす一方で、新たなビジネス機会の創出にもつながっています。グローバル化は、労働市場の流動性を高め、雇用の不安定化を招く側面がある一方、国際的な人材の活躍の場を広げる効果もあります。
グローバル化の影響は、産業や職種によって異なります。製造業では、安価な労働力を求めて生産拠点の海外移転が進み、国内の雇用が失われる傾向にあります。一方、サービス業では、海外市場の開拓や外国人観光客の増加により、新たな雇用機会が創出されています。ITやデジタル分野では、国境を越えたプロジェクトやリモートワークが可能になり、グローバルな人材の活躍の場が広がっています。
日本企業の海外生産比率は上昇傾向にあるものの、その影響は売上高ベースで▲24兆円程度(名目GDP比約5%)にとどまっている。これは海外需要に対応した生産シフトであり、国内生産の純減額ではない。
自動車や情報通信機械などの業界で海外生産拡大の動きが見られるが、逆輸入は限定的である。
製造業の海外生産拡大は「グローバル化」や「発展的分業」の段階にあり、国内で高付加価値品への生産転換が進めば、製造業全体の生産規模は維持できる。
「空洞化」への懸念はあるものの、日本の製造業は現時点では守るべき技術や「ものづくりの心」を持ち続けており、海外進出を新たなイノベーションの機会ととらえることも可能である。
グローバル化は、労働者に新たなスキルや知識の習得を求めます。語学力、異文化コミュニケーション能力、デジタルスキルなど、グローバルな環境で通用する能力の重要性が高まっています。また、グローバル化に伴う競争の激化は、労働者に高い生産性と付加価値の創出を求めます。生涯学習や継続的なスキルアップが欠かせません。
グローバル化の負の影響を緩和し、その恩恵を幅広く享受するためには、教育や職業訓練の充実、セーフティネットの強化、公正な競争条件の確保などが求められます。グローバル化に伴う構造変化に対応し、持続可能で包摂的な成長を実現する上で、雇用政策と産業政策の連携が重要となります。
日本の製造業が海外生産を拡大することで、国内の生産規模や雇用が縮小する「空洞化」という現象が懸念されています。
一方、日本企業が海外進出するメリットとして、販路拡大や生産コストの削減が挙げられます。特に、安価な労働力や資材の調達を目的として、新興国に生産拠点を移転する企業が増えています。
しかし、海外進出にはデメリットもあります。人件費の上昇や為替の変動リスクが顕著になっています。新興国の人件費高騰や為替相場の変動によって、経営が悪化する可能性もあります。
これらの要因を考慮すると、製造業の海外移転が進むことで、国内の雇用が縮小する「空洞化」という問題が深刻化することが予測されます。
GenerativeAI技術革新と雇用の変容
AI(人工知能)、ロボット工学、IoT(モノのインターネット)などの技術革新は、労働市場に大きな影響を及ぼしています。単純作業や定型業務の自動化が進み、一部の職種では雇用の減少が懸念される一方、新たな技術を活用した職種の創出や、効率化による生産性の向上も期待されます。技術革新は、労働者に新たなスキルの習得を求める一方、教育や職業訓練の機会の不平等を助長する可能性もあります。
著作権法第30条の4ではAI無断学習を合法化しているが、学習後に出力されるAI生成物の扱いについては規定されていない 生成AI(Generative Artificial Intelligence)
学習・開発段階
学習データの著作物の創作的表現をそのまま出力させる意図がある場合は享受目的が併存し、法第30条の4が適用されない。
学習データに含まれる著作物の創作的表現をそのまま出力させる意図がない場合、享受目的が併存しない場合、法第30条の4が適用される可能性がある。
生成・利用段階
既存の著作物と類似性のあるAI生成物を生成する場合
類似性が認められれば、依拠性が認められ、許諾なく利用することは違法であり、著作権侵害となるおそれがあります。
既存の著作物と類似していないAI生成物を生成する場合
海賊版使用ユーザーが投稿している学習モデルではないこと、ライセンス準拠モデルを使用している場合、違法海賊版ソフトウェアを使用していない場合、そして依拠性が認められない場合、許諾なく利用することが可能です。AIイラスト業界は倫理観がなくモラルもないため海賊版が横行しています。(「ライセンスに準拠しています」が嘘の場合がある。当然ライセンス表記も嘘でさらに海賊版やライセンス違反どころか他社の営業秘密を含む違法学習モデルであることもある。)
生成物の著作物性
AI生成物が「著作物」に当たるか ライセンスに準拠している、海賊版ではなく正規ライセンスであること、AI生成物が「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」である場合、AI生成物に創作性があれば著作物に当たる。ただしAIイラスト画像のサイズ変更、トリミング、色調の補正、これらの単純な加工は創作的な編集や加工とは呼べず、著作権は発生しません。
その他の論点
権利制限規定に該当する利用行為 公衆送信や譲渡など、権利制限規定に該当する利用行為を行う場合、許諾なく利用することは著作権侵害となるおそれがあります。
既存の著作物との類似性の程度 AI生成物と既存の著作物との類似性が高い場合、依拠性が認められ、許諾なく利用することは著作権侵害となるおそれがあります。
例外的なケース
AI利用者が既存の著作物を認識していないが、生成AIが学習段階で学習していた場合
依拠性あり。
AI利用者が既存の著作物を認識しており、生成AIを利用してその創作的表現を有するものを生成させた場合 依拠性あり。
米国著作権局がAI画像生成ツール「Midjourney」によって生成された作品の著作権登録を拒否した理由は、作品に対する人間の創作的寄与が不足していると判断されたためです。この決定は、著作権法における「創作的寄与」の概念に基づいています。
創作的寄与とは、作品の生成において人間がどれだけ具体的に関与したかを示す指標です。著作権が発生するためには、単にAIが生成した結果だけでなく、そのプロセスにおいて人間が意図的に介入し、創造的な要素を加えたことが求められます。具体的には、プロンプトの入力や作品の修正など、人間の手が加わった部分が重要視されます。
このケースでは、作者が624回以上のプロンプトを入力し、Adobe Photoshopでの修正を行ったにもかかわらず、著作権局はその介入が「創作的寄与」として不十分であると判断しました。つまり、AIによる生成過程での人間の役割が著作物として認められるレベルには達していなかったということです。
米国の著作権法では、著作物は「人間による創造的な表現」である必要があります。AIが独自に生成した作品は、人間の創造性が介在しない限り、著作権を持たないとされています。このため、AIによって生成された画像が他者の著作物に似ている場合や、単なる出力結果として扱われる場合には、著作権は発生しません。
歴史的に見ると、技術革新は常に雇用に影響を与えてきました。産業革命期には、機械化により多くの手工業者が失職しましたが、同時に工場労働者という新たな雇用が生まれました。20世紀後半には、コンピュータの普及により事務職の雇用が減少しましたが、IT関連の新たな職種が創出されました。今日の技術革新も、雇用の創出と喪失の両面の影響があると考えられます。
動画マン、背景絵師、
ソシャゲ絵師、フリーイラストレーターは生成AIのせいで廃業の危機です。
会計を含む一般事務職、デザイン職は生成AIで代替可能な人材という扱いです。
ホワイトカラーもブルーカラーも、職人も深層学習、ディープラーニング、ビッグデータの前ではすべて代替可能でリストラ、レイオフの対象です。
現にソシャゲの立ち絵なども生成AIが導入されています。
(AI広告・ソシャゲ粗製乱造会社の多くは違法海賊版ソフトウェアの使用が目立つ)
画像生成AIサービス「NovelAI Diffusion」(NovelAI)を提供する米Anlatanは2023年6月23日、流出した同社のAIモデルや、それを改変したモデルの利用について、公式Twitterアカウントで注意喚起した。「リークモデルを見かけた場合、法的措置を取る場合もある」(同社)という。
https:// www.itmedia.co.jp/news/articles/2306/23/news128.html
2024年8月22日 NovelAIリークモデル(NovelAI animefull-final-pruned.ckpt ハッシュ値[925997e9])は
CC BY-NC-SA 4.0ライセンス=クレジット表記義務・非営利目的のみ・
商用利用禁止・二次的著作物=マージモデルも商用利用禁止ライセンス継承であることが発表された
https:// blog.novelai.net/novelai-diffusion-v1-weights-release-jp-01d7fbad6fd7
誤解を招く歴史的類似性
AIが電気や産業革命と同等の影響を持つとされることがありますが、この比較は誤解を生むことがあります。電気や産業革命は社会全体の構造を根本的に変えましたが、AI技術は特定のタスクや業務の効率化に寄与するものであり、その影響範囲や深さは異なります。このような類似性によって、AIが持つ潜在能力について過大評価されることがあります。(プロ驚き屋がわざとらしく驚いている)
メディアや公的な発言者によるAIへの期待感や恐怖感が強調されることで、人々の認識が歪められることがあります。
例えば、「AIが人間と同じように学習する」といった表現は、実際には異なる学習メカニズムを持つ両者を混同させる要因となります。これにより、AI技術への過剰な期待や不安が生まれ、それが社会全体の議論にも影響を与えます
人間の学習は、主に「認識」「記憶」「思考」というプロセスから成り立っています。人間は感覚器官を通じて情報を受け取り、それを脳内で処理し、必要な情報を選別して記憶します。この過程では、経験や環境によって得られた知識が柔軟に適用されます。例えば、猫の画像を見せられた場合、その猫が異なる角度や姿勢であっても「猫」と認識する能力があります。
一方で、画像生成AIは主に「教師あり学習」や「教師なし学習」に基づいています。AIは大量のデータからパターンを学び、新しい画像を生成することができますが、そのプロセスは非常に異なります。AIは特定のデータセットから学び、そのデータに基づいて出力を生成するため、柔軟性に欠けることがあります。例えば、特定のスタイルや特徴が強調されたデータセットから学んだ場合、それ以外のスタイルや特徴には適応できないことがあります。
人間は情報を取捨選択し、重要な部分だけを記憶します。これに対して、AIは与えられたデータを全て記録し、それを基に処理を行います。このため、AIは過去のデータに依存しすぎる傾向があります。過剰適合(オーバーフィッティング)という現象が発生すると、特定のデータセットに対してのみ高い精度で出力することになり、新たな状況には対応できなくなる可能性があります。
人間の思考は創造的であり、新しいアイデアや概念を生み出す能力があります。例えば、アーティストは過去の経験や観察からインスピレーションを得て、新しい作品を創造します。このような柔軟性は、人間独自の特性です。
対照的に、AIは既存のデータから新しい画像を生成する際、その範囲内でしか創造できません。AIが生成する作品は、あくまで訓練されたデータに基づいています。そのため、完全に新しいスタイルやコンセプトを生み出すことは難しいと言えます。
絵柄LoRA,アートスタイルLoRA,漫画家・イラストレーター狙い撃ちLoRAは文化庁も著作権法侵害の恐れがあると警告しています
文化庁が公表した「AIと著作権に関する考え方」では、LoRA(Low-Rank Adaptation)を用いた生成AIの著作権侵害の可能性について詳細に論じられています。この資料は、特に学習段階と生成段階における著作権法上のリスクを指摘しています。
著作権法第30条の4は、特定の条件下で著作物を利用できることを規定していますが、この条文には例外があり、著作権者の利益を不当に害する場合には適用されません。したがって、LoRAを使用して他者の作品を模倣する場合、その行為が著作権侵害となるかどうかは、生成された作品との類似性や依拠性によって判断されます。
類似性と依拠性
著作権侵害が成立するためには、2つの要件が必要です
・類似性 生成された作品が既存の著作物と同一または類似していること。
・依拠性 生成物が既存の著作物に依拠していること。
(プロンプトに版権タイトル、版権キャラクター名、イラストレーター名が入っているのは確かな依拠性があるため違法となる可能性が高い
具体例 art by WLOP,Greg Rutkowski,Artgerm,Krenz Cuchart,ilya kuvshinov,)
このため、学習データとして他者の著作物を無断で使用した場合、その結果として生成された作品が元の作品とどれほど類似しているかが重要な判断基準となります
生成段階のリスク
享受目的の存在
生成段階では、AIによって生成された作品が他者の著作物に類似している場合、その利用が著作権侵害となる可能性があります。特に、学習データとして無断で使用した著作物が存在する場合、享受目的(商業的利益を得るためなど)が併存することで、著作権者の利益を不当に害することになります。この点については、文化庁も強調しています
具体的な事例
例えば、特定の画家のスタイルを模倣した画像を生成するAIモデルの場合、そのモデルが生成した作品が元の画家の作品と高い類似性を持つ場合、著作権侵害と見なされる可能性があります。特に、商業利用される場合はリスクが高まります.
赤松 健 ⋈(参議院議員・全国比例)
@KenAkamatsu
樋口紀信先生のLoRAの件で、多くの質問を頂いています。特徴的なのは、Civitaiでの配布場所に「学習に使用した画像は全て自作したものであり、イラストレーター本人の著作物は一切使用していません。」と書かれている点です。しかし、仮にイラストレーター本人の著作物が一切AI学習に利用されていないとしても、生成物の生成・利用行為が、既にある著作物との関係で「類似性・依拠性」を満たせば、それで著作権侵害となります。
利用者のみならず、開発者(つまりLoRAを作った人)が侵害主体になる可能性もあります。
この辺りは、文化庁が出した「AIと著作権に関する考え方について」に詳しく書いてありますので、ご参照下さい。
https:// bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/hoseido/r05_07/pdf/94024201_01.pdf
また、AIと著作権について相談できる「法律相談窓口」も設置されましたので、ご活用下さい。
https:// bunka.go.jp/seisaku/bunka_gyosei/kibankyoka/madoguchi/index.html
ちなみに生成AIについては、パブリシティ権など著作権以外の侵害の可能性なども、政府で検討が進められています。
https:// x.com/KenAkamatsu/status/1770426111706685705
○○先生風絵柄LoRA、絵師名LoRAはパブリシティ権侵害、翻案権侵害、不正競争防止法違反
LoRA技術を使用して他人の絵柄を模倣する行為は、
著作権法上の問題を引き起こす可能性があります。
特に、著作権法第30条の4に基づく「非享受目的」の利用が認められない場合、
著作権者の利益を不当に害することになります。
この場合、AIによる学習が
「享受目的」と見なされると、著作権侵害が成立する可能性があります
改正後の著作権法第30条の4では,著作物は,技術の開発等のための試験の用に供する場合,情報解析の用に供する場合,人の知覚による認識を伴うことなく電子計算機による情報処理の過程における利用等に供する場合その他の当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には,その必要と認められる限度において,利用することができることとしています。
著作権法の一部を改正する法律(平成30年法律第30号)について | 文化庁 (bunka.go.jp)
https:// www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/hokaisei/h30_hokaisei/
学習時の情報解析は合法だとしても、
生成段階、生成後のAIイラストは「人の知覚による認識を伴う」「著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的」としているため著作権侵害リスクがある
著作権法第30条の4は最強の盾ではなく、
文化庁も「類似性と依拠性がある場合は著作権侵害」だと警告している
AIやロボット工学の発展により、単純作業や危険な作業から人間が解放される一方、これらの技術に代替される職種では雇用が失われる恐れがあります。
単純作業がなくなるどころかホワイトカラーの仕事もAIが奪います。
日本の労働人口の約49%が、技術的には人工知能やロボット等で代替可能に推計されています。この推計は、株式会社野村総合研究所(NRI)と英オックスフォード大学のマイケル A. オズボーン准教授、カール・ベネディクト・フレイ博士の共同研究によって行われました。この研究は、601種類の日本の職業について、それぞれ人工知能やロボット等で代替される確率を試算し、10~20年後に日本の労働人口の約49%が代替可能であると推計されました。
例えば、工場の組立ラインや倉庫の仕分け作業など、定型的な作業の自動化が進んでいます。また、コールセンターや経理業務など、ホワイトカラーの一部の業務もAIに代替される可能性があります。
一方、技術革新は新たな雇用機会も創出します。AI、IoT、ビッグデータなどの分野では、高度な専門性を持つ人材の需要が高まっています。
生成AIの学習段階で他人の既存著作物を学習用データとして利用することは、著作物の「思想又は感情の享受」を目的としない利用の場合、通常は著作権法上適法とされます。 ただし、学習用データとして利用されることを明示的に拒否する旨の表示がされている既存著作物を利用したり、有料の解析用データベースを無断で利用したりする場合は、著作権侵害になる可能性があります。
生成AIによって生成された画像やイラストに著作権が認められるかどうかは議論があるところですが、生成物が学習用データと同一または類似しており、かつ依拠して生成されている場合は、学習用データの著作権を侵害する可能性があります。
また、生成された画像やイラストを利用する際には、他者の著作権などの知的財産権を侵害していないことを確認する必要があります。
また、技術を活用した新たなサービスやビジネスモデルの創出により、起業や雇用の機会が生まれています。シェアリングエコノミーやギグエコノミーの拡大も、技術革新がもたらした変化の一つです。
技術革新の影響は、労働者の技能や教育水準によって異なります。高度な技能や専門性を持つ労働者は、技術革新の恩恵を享受しやすい一方、低技能の労働者は代替されるリスクが高くなります。教育や職業訓練の機会の不平等は、技術革新がもたらす雇用の二極化を助長しかねません。
技術革新の負の影響を最小化し、その恩恵を社会全体で享受するためには、教育や職業訓練の充実、セーフティネットの強化、生涯学習の支援などが欠かせません。労働者の適応力を高め、新たな技術を活用する能力を育成することが重要です。社会全体で変化に対応し、ポジティブな影響を引き出していく必要があります。
著作権法第30条の4で無断学習は合法とされていますが、AI生成イラストなどが合法とは規定されていません。
日本音楽作家団体協議会(FCA)パブリックコメント 著作権法30条の4
「著作権法改正の審議の過程で強調されたことは
日本発のイノベーションを促すための法改正で、
日本版検索エンジンの開発のために著作物を利用するということであって、
人が知覚を通じて著作物を享受するものではないということでした」
だまし討ちで著作権法改正
AIイラストは享受する目的であるため著作権法30条の4に違反している
AIによって生成されたイラストが「享受する目的」で使用される場合には、著作権法第30条の4に違反するとされています。これは、AIが生成した作品がユーザーによって直接的に享受されることを前提としているためです。つまり、AIによる作品生成が「著作物」の範疇に入り、その結果として著作権侵害が生じる可能性があるという懸念です。
AIの学習段階と生成・利用段階の違い
著作権法第30条の4は、AIの学習のための著作物利用を規定しています。
しかし、AI生成物自体の利用や公開については直接言及していません。
学習段階
AIに学習データとして著作物を利用することが、第30条の4により認められています。
これは思想や感情の享受ではなく、AIの開発が目的とされるためです。
生成・利用段階
AIで生成した著作物を公表・複製する場合は、通常の著作権侵害の判断基準が適用されます。つまり、既存の著作物と類似性と依拠性の両方が認められれば著作権侵害となります。
AIやビッグデータ解析など、コンピューターによる情報処理において著作物を解析の対象として利用する行為が、著作権法第30条の4第2号の対象となります。
ただし、この場合でも以下の要件を満たす必要があります。
・著作物の「思想又は感情の享受」を目的としない利用であること
・必要と認められる限度を超えない利用であること
・著作権者の利益を不当に害さない利用であること
つまり、情報解析自体が目的であって、著作物の内容を人が知的・精神的に享受することが目的でない場合に限り、本条が適用されます。
知的・精神的享受の場合は許諾が必要
したがって、人が著作物の内容を知的・精神的に享受することを目的とする場合は、著作権者から許諾を得る必要があります。
少子高齢化と労働力人口の減少
少子高齢化の進行は、労働力人口の減少を招き、経済成長の制約要因となっています。生産年齢人口の減少は、労働力の確保を困難にし、企業の人手不足を深刻化させます。また、高齢化に伴う社会保障費の増大は、現役世代の負担を増やし、可処分所得の減少につながります。少子高齢化は、雇用と社会保障のバランスを大きく変化させ、持続可能な社会の実現を脅かしています。
日本は、世界に先駆けて少子高齢化が進行しています。
総人口に占める65歳以上の割合は、2020年に28.7%に達し、2040年には35.3%に達すると推計されています。一方、出生率の低下により、生産年齢人口(15~64歳)は減少の一途をたどっています。2020年の生産年齢人口は7,406万人ですが、2040年には5,978万人まで減少すると見込まれています。
少子高齢化は、労働力不足を深刻化させます。特に、介護や保育など、人手を要する分野での人材確保が困難になっています。労働力不足は、企業の生産性や競争力の低下につながり、経済成長を阻害します。また、人手不足を補うために、非正規雇用や外国人労働者への依存が高まり、雇用の質の低下や社会的な課題が生じています。
少子高齢化は、社会保障制度の持続可能性にも大きな影響を与えます。高齢者人口の増加に伴い、年金、医療、介護などの社会保障費が増大しています。
2020年度の社会保障給付費は132兆2,211億円に達し、国民所得の104万8,200円に相当しています
社会保障費の増大は、現役世代の負担を増やし、可処分所得の減少や消費の低迷につながります。
少子高齢化への対応には、多方面からのアプローチが求められます。労働力不足への対応として、高齢者の就労促進、女性の労働参加の拡大、外国人材の活用などが挙げられます。また、ロボット技術やAIの活用により、労働生産性の向上を図ることも重要です。社会保障制度については、給付と負担のバランスを見直し、世代間の公平性を確保しつつ、持続可能性を高める必要があります。
少子高齢化は、働き方や社会のあり方を根本的に変える可能性を秘めています。年齢に関わらず、多様な人材が活躍できる社会の実現が求められます。ライフステージに応じた柔軟な働き方の実現や、仕事と育児・介護の両立支援など、包摂的な雇用環境の整備が欠かせません。少子高齢化の課題解決には、政府、企業、個人が連携し、社会全体で取り組むことが重要です。
雇用問題が社会と経済に及ぼす影響
雇用問題は、個人の生活や尊厳に直結するだけでなく、社会の安定性や経済の持続可能性にも大きな影響を及ぼします。失業や非正規雇用の増加は、所得の減少や消費の低迷を招き、経済成長を阻害します。また、所得格差の拡大や社会的排除の深刻化は、社会の分断や不安定化を招く恐れがあります。雇用問題への対応は、個人の幸福追求と社会の持続的発展の両立を図る上で不可欠な課題といえます。
非正規雇用者は雇用が不安定で賃金が低いことが多く、生活の質が低下しやすくなります。日本の労働政策研究・研修機構の調査では、非正規雇用者が増加している一方で、正規雇用者の雇用が安定していて賃金が高い大企業の雇用が中心となっていることが指摘されています。
一方、非正規雇用の増加は、将来設計の困難さも引き起こすことがあります。非正規雇用者は、雇用の不安定性や賃金の低さに伴って、将来の生活計画や就業の安定性を確保することが困難になります。これにより、生活の質が低下しやすくなり、将来の設計が困難になることがあります。
雇用は、個人の生活の基盤であり、自己実現の手段でもあります。安定した雇用は、所得の確保だけでなく、社会とのつながりや自尊心の源泉にもなります。一方、失業や不安定な雇用は、生活苦や将来への不安を生み、心身の健康を損ねる要因となります。非正規雇用の増加は、所得の低さや雇用の不安定性から、生活の質の低下や将来設計の困難さにつながります。
雇用問題は、社会の安定性や公平性にも影響を及ぼします。失業率の上昇は、社会不安を高め、治安の悪化や社会の分断につながりかねません。所得格差の拡大は、教育格差や健康格差を生み、世代を超えた貧困の連鎖を招く恐れがあります。非正規雇用の増加は、社会保険の適用から外れる人々を増やし、セーフティネットの機能を弱めます。雇用問題は、社会的な公平性や包摂性を脅かす要因となります。
所得格差は、教育の機会の格差につながり、低所得層の子供たちの学力や進学率を低下させる。
低学歴は、将来の職業や所得に悪影響を及ぼし、貧困の固定化を招く。
所得格差は、健康格差の拡大にもつながる。低所得層は、生活習慣の悪さ、劣悪な居住環境、ストレスの蓄積などから健康状態が悪化しやすい。
健康格差は、教育の機会や就労の可能性を奪い、貧困の連鎖を生み出す。
子供の貧困は、健康被害や教育格差を通じて、その子供が大人になった時の貧困につながる。
経済の観点からも、雇用問題は看過できない課題です。失業率の上昇は、消費の低迷や税収の減少を通じて、経済成長を阻害します。所得格差の拡大は、購買力の低下や需要の二極化を招き、経済の活力を損ないます。非正規雇用の増加は、人的資本への投資を抑制し、生産性の向上を阻害します。雇用問題は、持続的な経済成長の実現を妨げる要因となります。
雇用問題への対応は、社会の持続可能性を左右する重要な課題です。雇用の安定と質の向上は、個人の生活の安定と自己実現を支え、社会の安定性と公平性を高めます。また、人的資本への投資や購買力の向上は、持続的な経済成長の基盤となります。雇用問題の解決には、経済政策、労働政策、教育政策、社会保障政策など、幅広い分野の連携が求められます。
非正規雇用の増加は、所得の低さや雇用の不安定性から、生活の質の低下や将来設計の困難さにつながる問題があります。
非正規雇用者の平均給与は正規雇用者の約3分の1の175万円にすぎず、低賃金の問題があります。また、有期契約を結んでいる非正規雇用は、契約終了後に次回の更新がない場合には新しい仕事を探す必要があり、ブランク期間ができて収入が不安定になるなど、雇用の不安定性も指摘されています。
このような所得の低さと雇用の不安定性から、非正規雇用者の生活の質は低下し、結婚や出産、住宅ローンなどの将来設計を立てにくくなっています。実際、不本意ながら正社員になりたくてもなれない「不本意非正規雇用労働者」は236万人にのぼり、非正規雇用の問題は深刻化しています。
政府は非正規雇用増加への対策として、同一労働同一賃金ガイドラインの制定や、正規転換の促進などに取り組んでいますが、雇用形態にかかわらず働きやすい労働環境を整備することが、今後ますます企業側に求められるでしょう。
雇用問題解決に向けた総合的アプローチの必要性
雇用問題の解決には、経済政策、労働政策、教育政策、社会保障政策など、多岐にわたる政策領域の連携が不可欠です。また、政府、企業、労働組合、教育機関、市民社会などの協働も求められます。雇用問題は複雑な要因が絡み合った構造的な問題であるため、単一の解決策では不十分です。総合的かつ長期的な視点に立った取り組みが必要であり、社会全体で知恵を出し合い、持続可能で包摂的な社会の実現を目指すことが重要です。
経済政策の観点からは、持続的な経済成長と雇用創出を図ることが重要です。イノベーションの促進や新たな成長分野の育成により、付加価値の高い産業を育てることが求められます。また、中小企業の支援や起業の促進により、地域経済の活性化と雇用の拡大を図ることも欠かせません。
労働政策においては、雇用の安定と質の向上を図ることが重要です。非正規雇用の待遇改善や正社員転換の促進、最低賃金の引き上げなどにより、働く人々の生活の安定と向上を目指すことが求められます。また、ワーク・ライフ・バランスの実現や多様な働き方の推進により、誰もが能力を発揮できる雇用環境を整備することが重要です。
教育政策は、雇用問題の解決に欠かせない要素です。教育の機会均等を確保し、誰もが質の高い教育を受けられるようにすることが重要です。また、職業教育や社会人の学び直しの機会を充実させ、技術革新に対応した人材育成を図ることも求められます。生涯学習の推進により、技術革新や産業構造の変化に対応した継続的なスキルアップを支援することも重要です。
社会保障政策は、セーフティネットの強化と雇用の安定化に寄与します。失業保険や生活保護などの制度を充実させ、雇用の不安定化に伴うリスクに対処することが求められます。また、医療や介護、子育て支援など、社会保障制度の持続可能性を高め、働く人々の生活の安定を支えることが重要です。
経済政策
デフレーション脱却 デフレーション脱却のための総合経済対策を通じて、雇用の安定と経済の成長を促進します。
労働政策
労働市場改革 労働市場の活性化を目指し、非正規雇用労働者のキャリアアップを促進するための正社員転換を支援します。
労働時間規制 労働時間の管理を厳格化し、長時間労働の問題を解消します。
フレキシキュリティー 北欧型のフレキシキュリティー・モデルを導入し、雇用の柔軟性を高めます。
教育政策
教育機会の平等化 所得格差の縮小を目指し、教育機会の平等化を推進します。
教育改革人材不足に対処するために、教育システムの改革を推進します。
社会保障政策
社会支援 貧困問題に対処するために、社会支援と教育機会の拡大を推進します。
高齢者福祉 少子高齢化に対処するために、子育て支援と高齢者福祉の充実を推進します。
これらの政策領域の連携が、雇用問題の解決に果たす役割を以下の通り示しています。
経済政策と労働政策の連携
経済政策がデフレーション脱却を推進し、労働市場の活性化を促すと同時に、労働政策が非正規雇用労働者のキャリアアップを支援します。
教育政策と社会保障政策の連携
教育政策が教育機会の平等化を推進し、社会保障政策が貧困問題に対処するために社会支援を提供します。
労働政策と社会保障政策の連携
労働政策が労働時間の管理を厳格化し、長時間労働の問題を解消すると同時に、社会保障政策が高齢者福祉を推進し、少子高齢化に対処します。
雇用問題の解決には、政労使の対話と協力が欠かせません。政府、企業、労働組合が、雇用の安定と質の向上に向けて、建設的な議論を重ね、協調的な取り組みを進めることが求められます。また、NPOやボランティアなど、市民社会の参画も重要です。地域の雇用問題に取り組み、社会的な包摂を促進する上で、市民の力は大きな役割を果たします。
グローバルな視点も欠かせません。雇用問題は、一国内の問題にとどまらず、国際的な広がりを持っています。グローバル化の影響への対応や、国際的な労働基準の遵守、開発途上国の雇用問題への支援など、国際社会が協調して取り組む必要があります。
雇用問題の解決には、短期的な対症療法ではなく、長期的な視点に立った構造改革が求められます。教育制度の改革、産業構造の転換、社会保障制度の再設計など、時間を要する取り組みが必要です。同時に、現に困難を抱える人々への支援を怠ってはなりません。短期的な支援と長期的な改革を、バランスよく進めていくことが重要です。
「働くこと」の意味を再考し、多様な働き方を認め合う社会の実現が求められます。年齢、性別、障害の有無などに関わらず、誰もが能力を発揮し、社会に参加できる環境を作ることが重要です。また、働くことと生活のバランスを大切にし、人生の多様な側面を大切にする価値観を育むことも必要です。
第2章 日本型雇用システムの変容と課題
日本型雇用システムは、戦後の高度経済成長期に確立され、長期雇用、年功序列型賃金、企業別組合という特徴を有してきました。この雇用システムは、労使の協調を促進し、企業の競争力と従業員の生活の安定を両立させる上で重要な役割を果たしてきました。しかし、バブル経済の崩壊以降、グローバル化や技術革新の進展に伴い、日本型雇用システムは大きな変容を迫られています。本章では、日本型雇用システムの変容と課題について、考察します。
終身雇用制の崩壊と雇用の流動化
終身雇用制は、日本型雇用システムの中核をなす慣行でした。終身雇用制とは、一度企業に雇用されると、原則として定年まで雇用が保障される制度を指します。この制度は、従業員に長期的な雇用の安定をもたらし、企業に対する忠誠心や帰属意識を高める効果がありました。また、企業にとっても、長期的な人材育成や技能の蓄積が可能となり、競争力の源泉となってきました。
しかし、バブル経済の崩壊以降、終身雇用制は徐々に崩れ始めました。バブル崩壊後の長期的な経済停滞により、企業は人件費削減や雇用調整を迫られるようになりました。リストラや早期退職制度の導入が進み、雇用の流動化が加速しました。また、グローバル競争の激化や技術革新の進展に伴い、企業は柔軟な雇用調整を求めるようになり、終身雇用制の維持が困難になってきました。
外需依存・自動車依存という経済・産業構造の脆弱性が露呈し、雇用調整が増幅された。
非正規労働者の不安定性が顕在化し、労働市場の二重構造が問題となった。
製造業の大企業に勤める男性従業員以外は、実際には終身雇用と呼べるような強固で安定的な雇用システムが維持されてこなかった。
企業は、解雇を減らすのではなく、人材の流動性を高め、能力評価に基づいた雇用システムを構築する必要がある。
正社員の多様化を進め、特定地域・職種での限定勤務と雇用保障を行う中間形態を設ける必要がある。
加えて、労働者の意識の変化も終身雇用制の崩壊に拍車をかけています。バブル世代以降の若者を中心に、一つの企業に定年まで勤め上げることを必ずしも望まない傾向が強まっています。自らのキャリアを自律的に形成することや、仕事と生活のバランスを重視する価値観が広がりつつあります。このような労働者の意識の変化は、終身雇用を前提としたキャリア形成モデルからの転換を促しています。
経済のグローバル化と競争激化
日本経済のグローバル化により、企業間の競争が激化しています。企業は競争力を維持するためコスト削減を求められており、終身雇用を維持することが難しくなってきました。そのため、契約期間や労働条件が柔軟に調整できる非正規雇用の比率が年々増加傾向にあります。
人件費の高騰
終身雇用は年功序列制度とセットで運用されることが多く、従業員の年齢や勤続年数とともに給与も自動的に上がる仕組みになっています。そのため、能力や成果に関わらず人件費が高騰しやすくなります。一方で、意欲がない生産性の低い従業員も雇用し続ける必要があり、企業経営を圧迫する要因にもなっています。
従業員の向上心の低下
終身雇用では定年までの雇用が保証されているため、従業員はクビになる心配がなく、努力したり成果をあげたりする必要性を感じにくくなります。そのため、向上心を持ちにくい環境が生まれ、生産性の低い従業員が増える可能性があります。
経済成長の鈍化
終身雇用は経済が右肩上がりに成長することを前提としている制度ですが、現在の日本経済は低迷期にあるため、終身雇用を確実に守ることが難しくなっています。特に、バブル期に就職した50代を中心とする層の早期・希望退職が増加しており、企業の人件費負担が重くのしかかっています。
雇用の流動化は、労働市場の効率性を高める一方、雇用の不安定化や所得格差の拡大につながる懸念もあります。特に、中高年齢層では、長期雇用を前提としたスキルや経験が転職先で評価されにくく、再就職が困難な状況が生じています。また、雇用の流動化は、企業と従業員の関係性を希薄化させ、組織への帰属意識や従業員の モチベーションの低下を招く恐れもあります。
終身雇用制の崩壊は、日本型雇用システムの根幹を揺るがす変化です。雇用の流動化に対応した新たな雇用システムの構築が急務となっています。雇用の安定性と流動性のバランスをいかに取るか、個人のキャリア形成をどのように支援するか、企業と従業員の新たな関係性をどう築くかなど、多様な課題に対応することが求められています。
若年期の雇用流動性がその瞬間においてはスパイラル型の上昇移動をもたらさないとしても、経験が中高年期の活動的な働き方に繋がっているため、個人のキャリアというダイナミックなプロセスにおいては雇用流動性のメリットを見いだすことができます。
一方、長期雇用型セクターにおいては、若年期の転職経験が不利な結果となっており、特に仕事満足度や勤続意向が低下していることが指摘されています。反対に、雇用流動型セクターにおいては、年収が低下するが、自己啓発が高まるという結果が見られます。
これらの結果は、企業規模や産業セクターによって異なる影響を与えることが示されており、中小企業では新卒一括採用や定年までの長期雇用が制度的に浸透していないため、雇用流動性が高いことが特に指摘されています。
年功序列型賃金体系の限界と成果主義の導入
年功序列型賃金体系は、日本型雇用システムのもう一つの特徴です。年功序列型賃金とは、勤続年数に応じて賃金が上昇する仕組みを指します。この賃金体系は、長期雇用を前提に、従業員の忠誠心や組織へのコミットメントを高める効果がありました。また、年功序列型賃金は、企業特殊的な技能の蓄積を促し、企業の競争力の源泉ともなってきました。
しかし、バブル経済の崩壊以降、年功序列型賃金体系は限界を露呈しつつあります。バブル崩壊後の長期的な経済停滞により、多くの企業で賃金の伸びが鈍化し、年功的な賃金上昇を維持することが困難になってきました。また、人口動態の変化により、若年労働力の不足と高齢者雇用の増加が進む中、年功的な賃金体系の維持が難しくなっています。
加えて、グローバル競争の激化や技術革新の加速化に伴い、成果や能力に基づく賃金体系への移行が進んでいます。成果主義とは、個人の業績や能力に応じて賃金を決定する仕組みです。成果主義の導入により、従業員のモチベーションを高め、生産性の向上を図ることが期待されています。また、成果主義は、労働市場の流動性を高め、人材の最適配分を促す効果もあるとされています。
しかし、成果主義の導入は、様々な課題も抱えています。成果主義は、短期的な業績のみを重視し、長期的な人材育成や組織力の向上を軽視する恐れがあります。また、成果の測定や評価の公正性を確保することが難しく、従業員間の過度な競争を煽ったり、モチベーションを損ねたりする可能性もあります。さらに、成果主義は、所得格差の拡大を招く恐れもあり、組織内の協調や一体感を損なう可能性もあります。
年功序列型賃金体系から成果主義への移行は、日本型雇用システムの大きな転換点となっています。成果主義の長所を生かしつつ、その弊害を最小化するための工夫が求められています。公正な評価制度の確立や、長期的な人材育成との両立、所得格差の是正など、様々な課題に応える必要があります。また、年功序列と成果主義のハイブリッド型の賃金体系など、新たな仕組みの検討も必要でしょう。
短期的な業績の重視
成果主義が短期的な業績に偏りすぎる場合、長期的な人材育成や組織力の向上を損なうことがあります。短期的な業績を重視することで、従業員が短期的な目標に集中し、長期的な視点を失うことがあります。これにより、企業の長期的な競争力や成長が阻害される可能性があります。
長期的な人材育成や組織力の向上の軽視
一方で、成果主義が長期的な人材育成や組織力の向上を軽視する場合、企業の将来的な競争力を損なうことになります。長期的な人材育成や組織力の向上は、企業の成長や競争力の向上に必要な要素です。成果主義がこれらの要素を軽視することで、企業の将来的な成長が阻害される可能性があります。
その他の課題
成果主義の導入には、以下のような課題もあります。
評価基準の明確化 成果主義を導入する際には、明確な評価基準が必要です。評価基準が不明確な場合、評価の公平性や正確性が損なわれることがあります。
評価者の研修と育成 評価者が適切に研修されていない場合、評価の誤りや偏りが生じることがあります。評価者の研修と育成が必要です。
評価者の負担の軽減 評価者が過重な負担を負うと、評価の質が低下することがあります。評価者の負担を軽減するための人事やシステムの導入が必要です。
企業別組合の弱体化と労働者の発言力低下
日本の労働組合は、企業別組合が中心であるという特徴があります。企業別組合とは、個別企業ごとに組織される労働組合を指します。この企業別組合は、企業との協調的な関係を維持しつつ、組合員の雇用の安定と処遇の改善を図ることを重視してきました。企業別組合は、日本型雇用システムを支える重要な役割を果たしてきたと言えます。
しかし、近年、企業別組合は弱体化の傾向にあります。バブル経済の崩壊以降、長期的な経済停滞や産業構造の変化により、多くの企業で雇用調整が進みました。リストラや早期退職制度の導入により、組合員数は減少傾向にあります。また、非正規労働者の増加により、組合員の平均年齢は上昇し、組織率も低下しています。
企業別組合の弱体化は、労働者の発言力の低下につながっています。組合員数の減少や高齢化により、組合の交渉力は低下しつつあります。また、企業別組合は、企業の業績や存続を最優先する傾向があり、雇用や処遇の改善よりも、企業の競争力維持を重視する姿勢が強まっているとの指摘もあります。このような状況下では、労働者の権利や利益を守るための集団的な発言力が弱まることが懸念されます。
日本の企業別労働組合は、終身雇用のシステムが崩壊した現在の雇用形態の多様化や雇用の流動化に適応できていないため、衰退の傾向にあります。このため、労働組合の役割が変化し、企業別労働組合の意義そのものが揺らいでいます。特に、企業別労働組合が単独で活動する場合、個々の企業の枠を超えての労働組合であるため、賃上げや賞与交渉などは個々の企業の支払い能力に左右されることがあり、経済的な要因から企業の死活問題になることがあります。
加えて、非正規労働者の増加も、労働者の発言力低下に拍車をかけています。非正規労働者は、多くの場合、労働組合に加入していません。非正規労働者の増加は、労働組合の組織率の低下につながるだけでなく、正社員と非正規労働者の分断を生み、労働者全体の連帯を弱める恐れもあります。
企業別組合の弱体化と労働者の発言力低下は、日本型雇用システムの変容に伴う重要な課題です。労働者の権利や利益を守り、公正な労使関係を構築するためには、労働組合の再活性化が不可欠です。企業の枠を超えた労働組合の連携や、非正規労働者の組織化、政策提言能力の強化など、新たな取り組みが求められています。また、労使対話の活性化や、従業員の参加と発言を促す職場づくりなど、労働者の発言力を高めるための多様な方策も必要でしょう。
企業別組合の弱体化と労働者の発言力低下
労働組合の交渉力の弱体化
労働組合の交渉力が弱体化しており、労働条件決定における役割が後退している。
非組合員を含む代表機能が劣化している。
労働者の団結の問題
労働者の団結が実質的にない場合、大量の脱退が発生することがあり、労働組合の存在感が低下する。
企業別組合の組織化が停滞しているため、労働組合が全国に活動していることが評価されるが、企業内での活動が難しい。
労働条件決定の影響
労働組合が労働条件決定に参加するが、実質的な影響を持ちえないことがユニオン運動の弱点である。
労働組合の再活性化の必要性
労働組合の存在感と組合加入の意義
労働組合の存在感と組合加入の意義を高めるため、労働組合自らが実践し考えることが必要である。
労働者の権利教育
労働者の権利を守るための知識を学ぶことが重要であり、組合員に対する権利教育が必要である。
労働組合の再活性化のための課題
ノンユニオンの企業に労働組合を立ち上げること、既存の組合が非正規労働者を組織化する方法を考えることが必要である。
労働組合の役割強化
労働組合が労働条件決定に参加し、労働者の権利を守るための役割を強化することが不可欠である。
労働組合の再活性化のための支援
労働組合の再活性化を支援するため、労働組合が全国に活動していることが評価され、企業内での活動を支援することが必要である。
日本型雇用システムの変容が労働者に与える影響
日本型雇用システムの変容は、労働者の雇用や生活に大きな影響を及ぼしています。終身雇用の崩壊は、雇用の不安定化や失業リスクの高まりをもたらしています。特に、中高年齢層では、長期雇用を前提としたスキルや経験が転職先で評価されにくく、再就職が困難な状況が生じています。雇用の不安定化は、労働者の生活の基盤を揺るがし、将来への不安を高めています。
年功序列型賃金体系の後退は、賃金の伸び悩みや所得格差の拡大につながっています。成果主義の導入は、一部の高業績者の賃金を押し上げる一方、多くの労働者の賃金は低迷しています。また、非正規労働者の増加は、正社員との賃金格差を拡大させています。賃金の低迷と格差の拡大は、労働者の生活の質の低下や、社会的な不公平感の高まりにつながっています。
企業別組合の弱体化は、労働条件の交渉力の低下や、不利益変更の受け入れにつながりかねません。組合の発言力の低下は、雇用や処遇の改善を困難にし、労働者の権利や利益を脅かす恐れがあります。また、非正規労働者の増加は、労働者間の分断を生み、連帯の弱体化につながっています。
日本型雇用システムの変容は、労働者の働き方やキャリア形成にも影響を与えています。終身雇用を前提とした企業特殊的なスキルの蓄積は、転職を困難にし、労働市場の流動性を阻害してきました。また、年功序列型の賃金体系は、長期的なキャリア形成を前提としており、転職や独立を困難にする側面がありました。日本型雇用システムの変容は、これらの前提条件を揺るがし、新たなキャリア形成モデルの構築を迫っています。
日本型雇用システムの特徴 日本の雇用システムは、長期的な雇用関係を維持することで企業内部での労働者が蓄積するスキルが特定の企業に固着する傾向があります。これにより、労働者が他の企業に転職することが困難になり、労働市場の流動性が低下します。
ポスト形採用の影響 ポスト形採用が一般的である欧米では、採用時点でそのポストが要求する職務能力を証明する必要があります。これにより、新卒者がそのまま企業に就職する場合には、ポストとして要求される職務能力が低く、転職も困難です。
中小企業の新卒採用 中小企業でも新卒採用が行われているが、十分な新卒採用を確保できていない実態があります。これは企業と就活学生との間でのミスマッチが原因であり、労働市場の流動性を阻害します。
労働市場の流動性の問題 日本でも30代までは流動的な労働市場が存在するが、40代以降については日本も欧米も同一企業に定着する比率が高まり、定年まである程度安定した雇用関係が維持されます。これにより、労働市場の流動性が低下します。
経済活性化の関係 産業構造の転換を進める前提として労働市場の流動性を高めることが優先政策課題です。これにより、労働生産性を高めることが重要となります。
日本型雇用システムの変容が労働者に与える影響は、雇用の不安定化、所得の低迷と格差の拡大、労働者の発言力の低下、キャリア形成の困難化など、多岐にわたります。これらの影響は、労働者の生活の質や将来への展望を脅かし、社会的な不安定化や不公平感の高まりにつながっています。日本型雇用システムの変容に対応し、労働者の雇用と生活を守るための新たな仕組みづくりが急務となっています。
賃金の伸び悩みと所得格差の拡大
年功序列型賃金体系の後退は、賃金の伸び悩みや所得格差の拡大をもたらしています。賃金の伸び悩みは、労働者の生活の質を低下させる一方、所得格差の拡大は社会的な不公平感を高める要因です。
成果主義の導入と賃金格差の拡大
成果主義の導入は、一部の高業績者の賃金を押し上げる一方、多くの労働者の賃金は低迷しています。高業績者が高い賃金を得る一方、低業績者は低い賃金を受けます。これにより、賃金格差が拡大し、労働者の生活の質が低下します。
非正規労働者の増加と賃金格差の拡大
非正規労働者の増加は、正社員との賃金格差を拡大させています。非正規労働者は、正社員に比べて低い賃金を受け、労働者の生活の質が低下します。
賃金の低迷と格差の拡大の影響
賃金の低迷と格差の拡大は、労働者の生活の質の低下や、社会的な不公平感の高まりにつながっています。労働者が低い賃金を受けることで、生活の質が低下し、社会的な不公平感が高まります。
新たな雇用システムの構築に向けた課題と提言
日本型雇用システムの変容を踏まえ、新たな雇用システムの構築が求められています。新たな雇用システムは、雇用の安定性と流動性のバランスを取りつつ、労働者の権利や利益を守り、社会の持続可能性を高めるものでなければなりません。以下、新たな雇用システムの構築に向けた課題と提言を述べます。
第一に、雇用の安定性と流動性の両立を図ることが重要です。終身雇用制の復活は現実的ではありませんが、雇用の安定性を高める施策は不可欠です。失業保険の拡充や、再就職支援の強化、職業訓練の充実などにより、雇用の安全網を強化することが求められます。同時に、労働市場の流動性を高め、スムーズな転職や再就職を可能にする施策も必要です。ジョブ型雇用の導入や、職務評価制度の確立、中途採用の拡大などにより、労働市場の柔軟性を高めることが重要です。
第二に、公正な評価制度の確立と、長期的な人材育成の両立が求められます。成果主義の導入に際しては、透明性と納得性の高い評価制度の構築が不可欠です。また、短期的な業績のみを重視するのではなく、長期的な視点に立った人材育成や能力開発を促す仕組みが必要です。個人の能力や適性に応じたキャリア形成を支援し、生涯を通じた学習や能力開発を促進する施策が求められます。
評価基準の公開 評価基準や評価結果と給与や昇進などの処遇との関連性を、従業員に明確に周知することが重要です。これにより、評価に対する不満や不信感を低下させ、モチベーションを高めることができます。
評価結果の理由の伝達 評価結果を伝える際には、理由を明確に説明することが重要です。これにより、評価結果に対する疑問点を解消し、納得性を高めることができます。
フィードバック面談 評価結果を伝える際には、フィードバック面談を実施することが重要です。これにより、評価結果に対する疑問点を解消し、納得性を高めることができます。また、次の改善目標や課題を明確にすることで、部下の成長を支援することができます。
多面評価 直属の上司のみによる評価では、被評価者の担当する業務全体についての能力や業績の評価が困難となるため、関連部門の上司や同僚による多面評価を活用することが有用です。これにより、評価の客観性と透明性を高めることができます。
評価者訓練 評価者が適切に評価を行うための訓練を実施することが重要です。これにより、評価の正確性を高めることができます。
評価結果の被評価者への伝達 評価結果を被評価者に明確に伝えることが重要です。これにより、評価結果に対する納得性を高めることができます。
評価の目的の周知 評価の目的を明確に周知することが重要です。これにより、評価に対する納得性を高めることができます。
第三に、労働者の発言力を高め、労使の対等な関係を構築することが重要です。企業別組合の枠を超えた労働組合の連携や、非正規労働者の組織化により、労働者の集団的な発言力を高めることが重要です。また、経営への労働者の参加を促進し、労使の対等な対話と協力を通じて、職場の課題解決や働き方の改善を図ることが求められます。労働者の発言力を高め、労使の建設的な関係を構築することは、持続可能な雇用システムの基盤となります。
第四に、非正規労働者の処遇改善と雇用の安定化が急務です。非正規労働者の増加は、雇用の不安定化や所得格差の拡大を招いています。同一労働同一賃金の実現や、非正規労働者の正社員化の促進、社会保険の適用拡大などにより、非正規労働者の処遇を改善することが重要です。また、非正規労働者の雇用の安定化を図るため、雇用期間の長期化や、雇用契約の更新ルールの明確化なども求められます。
非正規労働者は、雇用が不安定で所得が低いという問題があり、キャリア形成や長期的なスキルの習得も不利です。これにより、低所得から抜け出せないケースも多くあります。
非正規労働者の増加は、特に派遣社員や契約社員などに対して大きな影響を与えています。例えば、派遣社員は2008年1~3月期までは他の雇用形態と比較して増加幅が大きかったが、2008年10~12月期以降は大きく減少した。
また、非正規労働者の増加は、消費活動の停滞や経済の低迷を招いており、これが更なる非正規雇用の増加を招く「悪循環」に陥ることが指摘されています。
第五に、ワーク・ライフ・バランスの実現と多様な働き方の推進が重要です。長時間労働の是正や、柔軟な働き方の導入、仕事と育児・介護の両立支援などにより、労働者の生活の質を高め、多様な人材の活躍を促すことが求められます。また、リモートワークやフリーランスなど、新たな働き方の選択肢を広げ、個人のライフスタイルに合った柔軟な働き方を可能にすることも重要です。
最後に、新たな雇用システムの構築には、政労使の対話と協力、制度設計における柔軟性と包摂性が不可欠です。政府、企業、労働組合が、それぞれの立場を超えて、建設的な議論を重ね、協調的な取り組みを進めることが求められます。また、新たな雇用システムの設計に際しては、多様な労働者のニーズを踏まえた柔軟性と、社会的に排除されがちな人々への配慮が必要です。
本章では、日本型雇用システムの変容と課題について、考察しました。終身雇用制の崩壊、年功序列型賃金体系の限界、企業別組合の弱体化など、日本型雇用システムの根幹を揺るがす変化が進んでいることを明らかにしました。また、これらの変化が労働者の雇用や生活に与える影響の大きさを指摘し、新たな雇用システムの構築に向けた課題と提言を示しました。
日本型雇用システムの変容は、日本社会の根幹に関わる問題であり、その対応如何によっては、社会の持続可能性や労働者の生活の質に重大な影響を及ぼしかねません。新たな雇用システムの構築に向けては、本章で提示した課題と提言を踏まえ、政労使や他の多様な主体が知恵を出し合い、柔軟かつ包摂的な議論を重ねていくことが求められます。
読者の皆様には、日本型雇用システムの変容という大きな課題について、多面的な理解を深めていただければ幸いです。本章が、雇用をめぐる議論の活性化と、持続可能で包摂的な社会の実現に向けた一助となれば、筆者としてこの上ない喜びです。
次章では、失業と雇用崩壊がもたらす影響について、個人と社会の両面から掘り下げて考察していきます。失業や雇用崩壊は、個人の生活や尊厳を脅かすだけでなく、社会の安定性や持続可能性にも重大な影響を及ぼします。次章では、その影響の広がりと深刻さを丹念に分析し、求められる対策について議論を深めていきます。
・「ジョブ型雇用」とは、職務内容や必要とされる能力・スキルを明確に定義し、その職務に適した人材を採用・配置する雇用形態です。日本型の「メンバーシップ型雇用」(企業に所属することを重視し、職務内容が明確でない雇用形態)との対比で論じられることが多いです。
・「同一労働同一賃金」とは、同じ職務内容・職責であれば、雇用形態(正社員、非正規社員など)に関わらず、同じ賃金を支払うべきであるという考え方です。非正規労働者の処遇改善や、雇用形態間の不合理な待遇差の解消を目的としています。
・「ワーク・ライフ・バランス」とは、仕事と生活の調和を図ることを指します。長時間労働の是正や、柔軟な働き方の導入、仕事と育児・介護の両立支援などを通じて、労働者の生活の質を高め、多様な人材の活躍を促進することを目的とした取り組みです。
第3章 失業と雇用崩壊がもたらす影響
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