日本の経済安全保障は、国家の安全と経済的繁栄を確保するための重要な取り組みです。
グローバル化が進み、国際的な相互依存関係が深まる中、経済活動の安定性と信頼性の確保は、国家の重要課題となっています。ここでは、日本の経済安全保障の取り組みと課題について、サプライチェーンの強靭化など考察します。
経済安全保障の重要性の高まり
近年、経済安全保障の重要性が高まっています。その背景 要因
第一に、グローバル化の進展です。国境を越えた経済活動が活発化する中、一国の経済は、他国の動向に大きな影響を受けるようになっています。サプライチェーン(供給網)の寸断や、重要資源の供給途絶などのリスクが高まっているのです。
第二に、地政学的リスクの高まりです。米中対立の激化や、ロシアのウクライナ侵攻など、国際情勢の不安定化が経済活動に大きな影響を及ぼすようになっています。
第三に、新興技術をめぐる覇権競争です。AI(人工知能)や量子コンピュータなど、新たな技術が経済や安全保障に大きな影響を与えるようになっています。これらの技術をめぐる国家間の競争が激化しているのです。
こうした状況下で、経済活動の安定性と信頼性を確保し、国家の安全と繁栄を守ることが、経済安全保障の重要な目的となっています。
米国著作権局がAI画像生成ツール「Midjourney」によって生成された作品の著作権登録を拒否した理由は、作品が人間の創作物ではないと判断されたためです。
「Midjourney」を使用して624回以上のプロンプトを入力し、
さらにAdobe Photoshopで修正を加えたにもかかわらず、
著作権保護に必要な人間の創作的寄与が不足しているとされました。
著作権法においては、著作物として保護されるためには、人間による創造的な寄与が求められます。今回の場合、AIによる生成部分が相当量残存しているため、その部分については著作権を主張できないと判断されました。
つまり、AIが生成したコンテンツに対して人間の創造的な関与が不足しているとされ、その結果として著作権登録申請が却下されたのです。
画像生成AIサービスのNovelAIとMidjourneyは無断転載サイトDanbooruのデータセットで無断AI学習しています
無断転載サイトDanbooru(=Pixiv FANBOX有料イラスト)が無断AI学習されています
公式絵などもDanbooruを通して学習されています
無断学習の根拠とされている著作権法第30条の4には重要な例外があります。
「著作権者の利益を不当に害する場合」には、この規定が適用されないとされています。AI無断学習は違法
・著作権者が明示的に学習用データとしての使用を拒否している場合
・有料で提供されているデータベースから無断でデータを取得した場合
・学習結果が元の著作物と本質的に類似している場合。
これらの場合、著作権者の利益を侵害する可能性が高く、
その結果として違法行為と見なされることがあります。
DanbooruにはFANBOXの有料イラストも無断転載、無断掲載されています
つまりMidjourneyやNovelAIはDanbooruデータセット(無断転載イラスト集)を
学習に無断使用しているため著作権者の利益を不当に害している可能性があります
グローバル化により、資本や労働力の国境を越えた移動が活発化し、貿易や海外投資が増大している。
米中通商問題の影響は、サプライチェーンを通じて日本など部品供給国にも及ぶ可能性がある。
一国の経済危機が他国に波及するなど、国家間の相互依存が高まっている。
サプライチェーンの寸断は、川下産業に大きな影響を与える。
米中デカップリング(経済分断)は、サプライチェーンの分断を通じて世界経済に影響を及ぼす。
経済安全保障の観点から
日本では、経済安全保障の観点から、国内でAIの開発能力を高めることが重要視されています。自民党や経団連は、AIの開発を国家戦略として位置づけ、日本独自のAIモデル「日の丸LLM」の開発を推進しています。
一方、米国企業のOpenAIやGoogleがAIモデルの開発で先行しています。NVIDIAはAI向け半導体で一人勝ちの状況にあり、売上高が前年同期比3.6倍に達しました。
国際連携の動き
米国とイギリスは、量子、AI、合成生物学などの重要新興技術分野で連携強化を協議しています。
日本政府は、AIや量子などの重要技術分野の研究開発を促進し、アジアやグローバルサウスの国々とも連携して国際ルールづくりを主導していく方針です。
生成AIへの対応
急速に普及する生成AIについては、生産性向上に向けた利活用とリスク対応を一体的に進めることが急務とされています。日本政府は、今夏以降に専門家会議で法整備の必要性を検討する予定です。
日本では2022年に経済安全保障推進法が成立し、基幹インフラの安全性確保や機微技術の特許非公開化などの対策が進められています。
企業は、サプライチェーンの調整、生産・成長領域の移転、サイバーセキュリティ対策の強化など、地政学リスクへの具体的な対応を進めています。
サプライチェーンの強靭化
経済安全保障の重要な要素の一つが、サプライチェーンの強靭化です。サプライチェーンとは、原材料の調達から製品の販売に至るまでの一連の供給網のことを指します。このサプライチェーンが寸断された場合、経済活動に大きな混乱が生じます。
日本は、東日本大震災や、新型コロナウイルス感染症の拡大などを通じて、サプライチェーンの脆弱性を痛感してきました。特に、中国など特定の国に依存したサプライチェーンは、地政学的リスクに晒されやすいことが明らかになりました。
こうした状況を受け、日本政府は、サプライチェーンの強靭化に取り組んでいます。
サプライチェーンの多元化 特定の国や地域に依存しない、多様なサプライチェーンの構築を推進。
国内生産体制の強化 重要な製品や部品の国内生産体制を強化し、海外依存度を下げる。
在庫の適正化:緊急時に備えた在庫の適正化を推進。
サプライチェーンの可視化 デジタル技術を活用し、サプライチェーン全体の可視化を推進。
こうした取り組みを通じて、サプライチェーンの強靭化を図ることが、経済安全保障の重要な課題となっています。
サプライチェーンの概要
原材料・部品の調達
製造
在庫管理
配送
販売
消費
までの全体の一連の流れをサプライチェーンと呼びます。
サプライチェーンが寸断されるリスク
広域の地震や災害が発生すると、サプライチェーンが寸断される可能性があります。
東日本大震災の際、道路が壊れたことで物理的に商品が届かなくなり、コンビニなどに商品が並ばなくなりました。
サプライチェーンの寸断は、消費者に商品が届かなくなり、経済活動に大きな支障をきたします。
サプライチェーンが滞ることなく円滑に機能することが、経済活動を維持する上で重要となります。
サプライチェーンの重要性
製品供給の確保
サプライチェーンが滞ることなく円滑に機能することで、消費者に対する製品の安定供給が可能になります。サプライチェーンが寸断されると、消費者に商品が届かなくなり、経済活動に大きな支障をきたします。
コスト削減
サプライチェーン全体を一元的に管理することで、無駄なコストを削減できます。適正な在庫管理や最適な配送計画により、物流コストを大幅に下げられます。
リスク対応力の強化
自然災害や紛争、パンデミックなどのリスクに対し、サプライチェーンの二重化や生産拠点の分散化などの対策を講じることで、リスクに強いサプライチェーンを構築できます。
顧客満足度の向上
サプライチェーン全体で製品の品質向上に取り組むことで、顧客満足度が高まり、需要の増加が期待できます。
このように、サプライチェーンは経済活動の基盤となる重要な役割を担っており、その管理が企業の競争力に大きく影響します。
重要技術の保護と育成
経済安全保障のもう一つの重要な要素が、重要技術の保護と育成です。先端技術は、経済発展の源泉であると同時に、安全保障上の重要な資源でもあります。
特に、半導体や、レアアース(希土類)など、日本が強みを持つ技術や資源は、国際的な覇権競争の対象となっています。これらの技術や資源を守り、育てていくことが、経済安全保障の重要な課題だと言えます。
日本政府は、以下のような取り組みを進めています。
技術流出の防止 外国投資規制の強化や、技術流出防止策の強化により、重要技術の流出を防ぐ。
研究開発の促進 重要技術分野での研究開発を促進し、技術的優位性を維持・強化する。
国際連携の強化 同盟国との技術協力を強化し、技術覇権をめぐる競争に対応する。
こうした取り組みを通じて、重要技術を守り、育てていくことが、日本の経済安全保障にとって欠かせない要素となっています。
経済安全保障の確保には、先端的な重要技術の研究開発と育成が必要です。日本政府は、この課題に対処するため、「経済安全保障重要技術育成プログラム」(通称Kプログラム)を立ち上げました。
Kプログラムの概要
日本が国際社会で中長期的に確固たる地位を確保するため、先端的な重要技術の研究開発とその成果の活用を推進する。
経済安全保障上の国のニーズを踏まえ、個別技術の特性に応じた技術流出対策を講じながら、研究開発から技術実証までを迅速かつ柔軟に推進する。
内閣府、文部科学省、経済産業省などが連携し、府省横断的に重要技術の研究開発を推進する。
有識者で構成されるプログラム会議での検討を経て、国のニーズ(研究開発ビジョン)を決定し、これを実現する研究開発を公募で推進する。
重要技術の例
半導体、レアアース(希土類)など、日本が強みを持つ技術・資源
海洋情報収集、海上通信網、船舶設計・開発、運行管理の最適化技術
AIセキュリティ、ハイブリッドクラウド利用基盤、航空機開発製造プロセス高度化技術
このように、Kプログラムを通じて、経済的にも安全保障上も重要な先端技術の研究開発が強力に推進されています。
エネルギー安全保障の確保
経済活動の基盤となるエネルギーの安定供給も、経済安全保障の重要な要素です。日本は、エネルギー資源の大部分を海外に依存しているため、エネルギー安全保障の確保が極めて重要な課題となっています。
特に、化石燃料への依存度が高い日本にとって、中東情勢など地政学的リスクへの対応は重要な課題です。また、脱炭素化の流れの中で、再生可能エネルギーの導入拡大や、水素エネルギーの活用など、エネルギー転換への対応も求められています。
日本政府は、以下のような取り組みを進めています。
エネルギー源の多様化 化石燃料への依存度を下げ、再生可能エネルギーや原子力など、多様なエネルギー源の活用を推進。
備蓄の強化 石油や天然ガスの備蓄を強化し、緊急時への対応力を高める。
国際協調の推進 エネルギー分野での国際協調を推進し、地政学的リスクへの対応力を高める。
こうした取り組みを通じて、エネルギー安全保障を確保することが、日本の経済安全保障にとって欠かせない要素となっています。
化石燃料への依存度が高い日本は、中東情勢の地政学的リスクに大きく影響を受けます。一方で、世界的な脱炭素化の潮流の中、再生可能エネルギーや水素エネルギーなどの新たなエネルギー源への移行が求められています。
中東情勢の地政学的リスク
日本は化石燃料をほとんど海外に依存しており、中東産油国の情勢が大きな影響を及ぼす
ロシアのウクライナ侵攻後、石油在庫は減少しており、中東産油国の重要性が高まっている
一方、米国のシェール革命により中東への関与インセンティブが変化している
脱炭素化への対応
世界的な脱炭素の流れにより、化石燃料依存からの脱却が進んでいる
再生可能エネルギーの導入拡大や、水素エネルギーの活用など、エネルギー転換が必要
資源国の立場も変化し、チリなどは再生可能エネルギーと鉱物資源の両面で重要性が高まっている
日本は、中東情勢の地政学的リスクへの対応と並行して、脱炭素化への対応として新たなエネルギー源の確保が課題となっている。資源外交の再構築と、エネルギー安全保障の確保が重要である
経済安全保障体制の強化
経済安全保障を効果的に推進するためには、政府内の体制強化も重要な課題です。経済安全保障は、経済政策と安全保障政策の融合領域であり、省庁横断的な取り組みが求められます。
日本政府は、取り組みを進めています。
経済安全保障法の制定 経済安全保障に関する基本方針や、重要物資の安定供給確保などを定めた法律の制定を推進。
体制の強化 内閣官房に経済安全保障室を設置し、省庁横断的な政策立案・調整機能を強化。
情報収集・分析の強化 経済安全保障に関する情報収集・分析機能を強化し、リスクの早期発見・対応力を高める。
こうした体制の強化を通じて、経済安全保障政策の実効性を高めることが重要な課題となっています。
日本の経済安全保障は、国家の安全と経済的繁栄を守る上で、極めて重要な取り組みだと言えます。グローバル化や地政学的リスクの高まりを背景に、その重要性はますます高まっています。
サプライチェーンの強靭化、重要技術の保護と育成、エネルギー安全保障の確保など、様々な角度からの取り組みが求められています。同時に、経済安全保障を推進するための体制の強化も欠かせません。
ただし、経済安全保障の取り組みには、いくつかの課題もあります。
第一に、安全保障と経済活動のバランスをどう取るかという問題です。安全保障の観点からの規制強化は、企業活動の制約につながる可能性があります。安全保障と経済活動のバランスを取ることが重要な課題だと言えます。
第二に、国際協調との関係です。経済安全保障の取り組みは、時に他国との摩擦を生む可能性があります。特に、技術覇権をめぐる競争は、国家間の対立を生みかねません。国際協調を維持しつつ、国益を守る難しいバランス感覚が求められます。
第三に、コストの問題です。サプライチェーンの多元化や、国内生産体制の強化には、一定のコストがかかります。こうしたコストをどう負担するかも重要な課題だと言えます。
こうした課題に適切に対応しながら、経済安全保障の取り組みを進めていくことが求められています。政府と民間が連携し、戦略的かつ柔軟に取り組みを進めることが重要だと言えるでしょう。
また、経済安全保障は、日本一国だけの問題ではありません。グローバルな課題に対しては、国際社会と協調した取り組みが欠かせません。同盟国や友好国との連携を強化し、ルールに基づく国際秩序の維持・強化に努めることも重要な視点だと言えます。
企業にとって、安全保障の観点から規制が強化されると、データ管理や情報システムの運用などで制約を受ける可能性があります。例えば、データの保存場所や社内システムへのアクセス制限など、セキュリティ強化のために必要な対策を講じなければならず、業務の効率性が下がる恐れがあります。
一方で、企業が保有する顧客情報や機密データを適切に保護することは、企業の社会的責任であり、法令順守の観点からも重要です。データ漏洩などのセキュリティインシデントが発生すると、企業の信用失墜や罰金などのペナルティを受ける可能性があります。
このジレンマを解決するためには、企業は以下のような取り組みが求められます。
安全保障とコンプライアンスに関する社内規程を整備し、全従業員に周知・徹底する
最小限の権限でシステムにアクセスできるよう、アクセス制御を適切に設定する
データのバックアップ体制を整備し、災害や事故に備える
外部の専門家と連携し、リスクアセスメントを定期的に実施する
また、政府には企業の実情を踏まえた合理的な規制を設けることが求められます。
企業と政府が協力し、安全保障と経済活動のバランスを取りながら、データ保護とイノベーションの両立を目指すことが重要だと考えます。
経済安全保障の取り組みは、時に他国との摩擦を生む可能性があります。特に、技術覇権をめぐる競争は、国家間の対立を生みかねません。しかし、国際協調を維持しつつ国益を守るためには、以下のようなアプローチが重要だと考えられます。
まず、有志国・地域との相互補完関係の構築を含め、重要技術とサプライチェーンの多様化を図ることが必要です。特定の国に過度に依存せず、リスクを軽減することが肝要です。
同時に、グローバルサウスとの関係強化も必要です。首脳レベルでの信頼関係の構築に加え、産業・技術基盤強化に向けた取り組みを通じて、良い関係を築くことが重要でしょう。
さらに、データ利活用能力やインテリジェンスの高度化により、自国の経済安全保障を強化することも重要です。情報収集力を高め、リスクを的確に把握し、迅速に対応できる体制を整備することが肝要です。
最後に、国際ルールに基づいた取り組みを行うことが必要です。WTO規則を含む国際的義務に沿った対応を行うことで、オープン性を維持しつつリスクを回避することが可能となります。
セキュリティリスクを最小限に抑える対策
必要最小限のデータのみを保持する
機密文書は施錠して保管し、適切に廃棄する
従業員に対するセキュリティ教育を徹底する
ネットワークへのアクセスを認可済み端末に限定する
パスワードの適切な管理と定期的な変更
規制遵守とリスク軽減のバランス
リスクアセスメントを実施し、自社に適したセキュリティ対策を講じる
最小権限の原則に基づきアクセス権を制限する
重要業務は複数の担当者に分担させる
ソフトウェアを常に最新の状態に保つ
サイバー保険への加入を検討する
国益と国際協調のバランス
経済安全保障は国家の重要な利益を守るための施策ですが、過度に自国の利益を優先すれば、他国との軋轢を生む可能性があります。 一方で、国際協調を重視し過ぎれば、自国の経済的安全が損なわれかねません。このジレンマを解決するには、以下の点が重要でしょう。
透明性の確保と対話の促進により、他国の懸念を払しょくする
国際ルールの整備を主導し、公平なプレーイングフィールドを作る
同盟国や有志国との連携を強化し、対立を回避する
多国間主義の重要性
経済安全保障は一国単独では対処しきれない課題です。 技術覇権をめぐる大国間競争は、新たな分断を生みかねません。そのため、多国間の枠組みを活用し、ルールベースの国際秩序を維持することが必要です。 国連をはじめとする国際機関は、この点で重要な役割を果たすでしょう。
コストの負担方法
サプライチェーン強靱化のコストを企業が全て負担するのは困難です。そこで、政府による以下の支援策が重要になります。
企業の設備投資への補助金支給
重要鉱物のサプライチェーン多様化への支援
企業の事業再編などへの金融支援
政府と民間の連携
経済安全保障は国家的な課題であり、政府と民間が緊密に連携して取り組む必要があります。
政府は企業の事業継続を支援する制度設計が求められる
企業は自社のサプライチェーンリスクを適切に評価・管理する必要がある
さらに、経済安全保障の取り組みは、短期的な対応だけでは不十分です。長期的な視点に立ち、日本の強みを生かした産業競争力の強化や、イノベーションの促進など、経済的な基盤の強化も並行して進めていく必要があります。
経済安全保障は、日本の将来を左右する重要な政策課題だと言えるでしょう。
経済安全保障の取り組みは、確かに短期的な対応だけでは不十分です。 長期的な視点に立ち、以下の点が重要となります。
産業競争力の強化
高度外国人材の活用により、事業の健全性と信頼性を確保しつつ、多様な人材を確保することが必要です。 これにより、日本の産業競争力を強化できます。
イノベーションの促進
スタートアップへの研究開発助成だけでなく、 既存機関の強みを活かしながら、量産化に至るまでの対応を検討する必要があります。 イノベーションを促進することで、経済的な基盤を強化できます。
食料安全保障
農地面積の確保など、食料安全保障の観点からも長期的な取り組みが重要です。
政府は健全な経済発展を目指しており、 経済安全保障の取り組みにおいても、短期的な対応に加え、上記のような長期的な視点に立った経済的な基盤の強化
企業には、サプライチェーンの強靭化や、重要技術の保護など、自らのビジネスの安定性と信頼性を高める不断の努力が求められます。
日本の経済成長と格差是正の両立
経済成長は国の豊かさの基盤であり、格差是正は社会の公正と安定の基盤です。この二つの目標をいかに両立するかは、日本の将来を左右する大きな政策課題だと言えるでしょう。ここでは、日本の経済成長と格差是正の両立に向けた政策課題について、様々な角度から考察します。
経済成長の見通し
日本経済は2024年後半に成長が加速すると予想されています。 賃金の伸び、個人消費、円安などが成長を後押しする要因とみられています。 実質GDP成長率は2024年に1%程度に鈍化するものの、2025年には再び1%近くまで回復すると見込まれています。 ただし、世界経済の減速などの下振れリスクもあります。
格差是正に向けた課題
一方で、長年の経済停滞により格差が広がっています。 大企業と中小企業、正社員と非正規雇用の間で賃金格差が存在し、個人消費の足かせになっています。 また、少子高齢化による労働力不足も格差拡大の要因の一つです。
両立に向けた政策の方向性
経済成長と格差是正を両立させるには、以下のような政策が重要と考えられます。
賃上げを促進し、個人消費を下支えする
中小企業の生産性向上を支援し、賃金格差を是正する
女性や高齢者の活躍を後押しし、労働参加を促進する
デジタル化や人的資本への投資を通じて、潜在成長率を引き上げる
また、財政・金融政策の正常化を慎重に進め、経済の新たな成長軌道への移行を後押しすることも重要です。
包摂的な経済成長モデルの構築
経済成長と格差是正を両立するためには、包摂的な経済成長モデルの構築が必要です。包摂的な経済成長とは、成長の果実が社会の隅々にまで行き渡り、誰もが成長の恩恵を享受できる経済成長のことを指します。
これまでの日本の経済成長は、大企業や都市部を中心とする成長モデルでした。この成長モデルは、地方や中小企業、非正規労働者などを取り残す形で進んできた側面があります。その結果、経済的な格差が拡大し、社会の分断が進んできたのです。
この状況を打開するためには、地方創生や中小企業支援、非正規労働者の処遇改善など、包摂性を重視した政策が求められます。成長の果実を社会全体で分かち合う仕組みを作ることが、経済成長と格差是正の両立には欠かせません。
機会の平等と能力開発
教育や技術訓練などを通じて、すべての人々が経済活動に参加できる機会と能力を確保する必要があります。
デジタル化の進展に伴い、デジタルスキルの習得支援が必要です。
社会保障制度の整備
所得再分配機能の強化や、セーフティネットの拡充により、成長の恩恵を広く享受できるようにします。
医療・年金などの社会保障制度を適切に設計し、脆弱層を保護することが重要です。
雇用創出と生産性向上
中小企業支援や起業促進などにより、質の高い雇用機会を創出します。
技術革新を通じた生産性向上と、その成果の適正な分配が必要です。
地域間格差是正
インフラ整備や産業振興策を通じて、地域間の経済格差を是正することも重要な課題です。
包摂的な成長は、経済と社会の両面で恩恵をもたらし、持続可能な発展につながります。政策当局は、様々な施策を総合的に講じる必要があります。
人的資本への投資強化
経済成長と格差是正を両立する上で、人的資本への投資は極めて重要な要素です。人的資本とは、教育や訓練、健康などを通じて蓄積された個人の能力のことを指します。この人的資本への投資は、個人の生産性を高めるとともに、社会の発展の基盤となります。
特に、教育は格差是正に重要です。家庭の経済状況に左右されない質の高い教育を提供することが、機会の平等を保障し、格差の連鎖を断ち切ります。
また、リカレント教育(学校教育修了後に再び教育機関で学ぶこと)の充実も重要な課題です。技術革新が急速に進む現代社会では、生涯にわたって学び続けることが求められます。社会人の学び直しを支援することは、個人のキャリア形成を支えるとともに、社会全体の人的資本の底上げにつながります。
教育は格差是正に重要です。 質の高い教育を受けられれば、人は貧困の連鎖を断ち切ることができ、不平等の是正とジェンダーの平等達成に貢献します。 しかし、世界には依然として5,700万人の子どもが学校に通えない状況にあります。
家庭の経済状況が教育機会に影響を与えています。 貧困家庭では、子どもを学校に通わせるよりも生活の安定を優先する傾向があり、 教育費の自己負担が大きな障壁となっています。 また、親が教育の重要性を理解できていないことも原因の一つです。
一方、教師不足や学校施設の不備も、質の高い教育を受けられない要因となっています。 特に途上国の農村部では深刻な問題となっています。
したがって、家庭の経済状況に左右されない質の高い教育を提供することが、機会の平等を保障し、格差の連鎖を断ち切ります。 また、リカレント教育の充実も重要な課題です。 生涯を通じて学び続けられる環境を整備することで、格差是正につながるでしょう。
セーフティネットの強化と再分配政策の拡充
格差是正のためには、セーフティネットの強化と再分配政策の拡充も欠かせません。セーフティネットとは、病気や失業、老後など、生活上のリスクに直面した際の安全網のことを指します。再分配政策とは、税制や社会保障を通じて、富の再分配を図る政策のことです。
日本では、非正規労働者の増加や、単身高齢者の増加など、新たな社会的リスクが生まれています。これらのリスクに対応するため、セーフティネットの拡充が求められます。例えば、最低賃金の引き上げや、失業保険の拡充、介護サービスの充実などが重要な政策課題だと言えます。
また、税制や社会保障を通じた再分配機能の強化も重要です。所得税の累進性の強化や、相続税・贈与税の拡充など、富の偏在を是正する政策が求められます。同時に、子育て支援や教育支援など、機会の平等を保障する社会保障政策も必要です。
イノベーションの促進と新たな成長産業の育成
経済成長と格差是正を両立するためには、イノベーションの促進と新たな成長産業の育成も重要な政策課題です。イノベーションは、新たな価値を創造し、経済成長の原動力となります。また、新たな成長産業は、雇用の創出と所得の向上を通じて、格差是正にも寄与します。
日本は、少子高齢化や環境問題など、様々な社会課題に直面しています。これらの課題の解決に向けたイノベーションを促進することは、日本の経済成長の鍵を握っています。例えば、健康・医療分野や、環境・エネルギー分野などでのイノベーションは、日本の新たな成長産業となる可能性を秘めています。
また、スタートアップ(新興企業)の育成も重要な政策課題です。スタートアップは、イノベーションの担い手であり、新たな雇用の創出源でもあります。スタートアップの創業支援や、成長支援の強化が求められます。
経済成長の原動力としてのイノベーション
イノベーションは経済成長の原動力を生み出すだけでなく、社会課題の解決にも貢献します。企業が一定の付加価値を維持・拡大することが、経済成長の原動力となります。付加価値は設備投資・人件費・利益から構成されるため、付加価値を維持・拡大することが将来の設備投資や雇用拡大の原資となり、マクロ経済成長の指標となります。
格差是正への寄与
新たな成長産業の創出は、雇用の創出と所得の向上をもたらし、産業間の格差解消にも寄与します。経営管理方法の導入等を通じて新たな価値を生み出すことで、格差是正に資することができます。
イノベーションを促進することで、新たな付加価値の創出と経済成長が実現でき、さらに雇用創出と所得向上による格差是正にもつながります。
働き方改革と多様な働き方の推進
経済成長と格差是正の両立には、働き方改革と多様な働き方の推進も欠かせません。働き方改革とは、長時間労働の是正や、柔軟な働き方の促進などを通じて、労働者の生産性と満足度を高める取り組みのことを指します。
日本では、長時間労働や、正規・非正規労働者の処遇格差など、労働をめぐる様々な問題が存在します。これらの問題は、労働者の生活の質を低下させるだけでなく、経済成長の足かせにもなっています。
働き方改革を通じて、労働時間の短縮や、柔軟な働き方の導入を進めることは、労働者の wellbeing(ウェルビーイング:幸福で良好な状態)の向上につながるとともに、生産性の向上にも寄与します。また、女性や高齢者、障がい者など、多様な人材が活躍できる環境を整備することは、労働力の確保と、社会の包摂性の向上にもつながります。
公正な処遇の確保
雇用形態に関わらず、公正な処遇を確保しなければなりません。正規・非正規の格差是正に向けて、企業の取り組みと労働組合の役割が期待されています。
柔軟な働き方の選択肢
労働者がライフステージに応じて様々な働き方を選択できるようにすることで、ワークライフバランスの実現が可能になります。
労働時間の適正管理
長時間労働の是正と労働時間の短縮を進めることで、労働者の健康確保とワークライフバランスの改善が図れます。
地域間格差の是正と地方創生
経済成長と格差是正の両立には、地域間格差の是正と地方創生も重要な政策課題です。日本では、東京一極集中が進み、地方と都市部の経済的な格差が拡大しています。この地域間格差は、社会の分断を深める一因ともなっています。
地域間格差を是正するためには、地方の経済的自立が求められます。地域資源を活用した産業振興や、地方大学の振興などを通じて、地方経済の活性化を図ることが求められます。
また、地方への移住・定住の促進も重要な政策課題です。東京一極集中を是正し、地方の人口減少に歯止めをかけるためには、地方の魅力を高め、移住・定住を促進する取り組みが欠かせません。テレワークの推進や、二地域居住の促進など、新たな生活様式も視野に入れた政策が求められます。
経済成長と格差是正の両立は、まさに日本社会が直面する最重要課題の一つだと言えます。この課題に立ち向かうためには、上述のような多面的な政策アプローチが必要です。
しかし、これらの政策を実行に移すことは容易ではありません。それぞれの政策には、様々な利害関係者が存在し、調整が難しい側面があります。また、短期的には経済効率性と公平性のトレードオフ(二律背反)が生じる可能性もあります。
だからこそ、長期的な視点に立ち、粘り強く取り組みを進めていくことが何より重要だと言えるでしょう。一時的な困難に屈することなく、将来世代も含めた社会全体の幸福を目指して、政策を推進していく。そうした戦略的かつ息の長い取り組みが求められているのです。
地域資源を活用した産業振興
地域の中核的な産業の振興やその専門人材育成などを行う地方創生の取組を支援する
地域の組織レベルでの産官学連携の推進体制を構築し、地域の専門人材の育成や産業振興を推進する
地方大学の振興
地方大学の振興により、学生の地方大学への進学が推進され、東京一極集中の是正に寄与する
地方大学・地域産業創生交付金などの新たな支援策により、地方大学が中核となって地域の産業振興に取り組むことを支援する
地方大学の立地・誘致政策は、地域の大学進学動向に影響を与えている
地方の産業振興と経済活性化
地域資源を活用した産業の育成・振興
地方大学の活性化による人材育成と地域産業への貢献
起業支援や企業誘致による雇用機会の創出
地方への移住・定住の促進
テレワークの推進や二地域居住の促進など、新しい生活スタイルへの対応
地方の魅力向上(交通インフラ整備、医療・福祉の充実、教育環境の改善など)
結婚・出産・子育て支援による定住促進
地方の自立的発展に向けた環境整備
地方分権の推進と地方財政の確保
デジタル化の推進による地方の利便性・生産性向上
地域コミュニティの維持・活性化
企業には、包摂的で持続可能な成長を目指す経営が求められます。短期的な利益追求ではなく、社会的責任を果たし、多様なステークホルダーの利益を調和させる経営が重要です。
市民社会には、格差是正や社会的包摂の重要性を訴え、政策形成に参画することが期待されます。NPOやボランティア団体などの活動を通じて、社会の隅々にまで目を配り、課題解決に取り組むことが求められます。自らの行動が社会全体に影響を及ぼすことを自覚し、社会の一員としての責任を果たす。そうした意識と行動の変化が、社会を変える大きな原動力となるのです。
経済成長と格差是正の両立は、日本社会全体で取り組むべき課題です。
日本の将来を切り拓くためには、経済成長と格差是正を両立する新たな社会モデルの構築が必要です。それは、単に経済的豊かさを追求するだけでなく、尊厳を持って生きられる社会。多様性が尊重され、誰もが希望を持てる社会。そうした包摂的で持続可能な社会の実現こそが、日本の進むべき道だと言えるでしょう。
日本は、経済成長と社会的課題の解決を両立する新しい社会モデル「Society 5.0」を提唱しています。 これは、IoT、ロボット、AI、ビッグデータなどの先端技術を様々な産業や社会活動に取り入れ、サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させることで、一人ひとりのニーズに合ったきめ細かなサービスを提供し、誰もが活躍できる包摂的な社会を目指すものです。
Society 5.0では、イノベーションによって生み出された新しい価値により、地域、年齢、性別、言語の格差を解消し、経済発展と社会問題の解決を同時に実現することを目指しています。 これは、国連の掲げる持続可能な開発目標(SDGs)の達成にも貢献するものと期待されています。
ただし、これまでの日本社会のモデルは、集団主義的で画一的なイメージが強く、個人の多様性を十分に反映していないとの指摘もあります。 Society 5.0を実現するためには、そうした固定観念を脱却し、尊厳を尊重し、誰もが希望を持てる社会を構築していくことが重要だと言えるでしょう。
日本の経済の持続可能性と資源制約の関係性
地球環境の有限性を踏まえつつ、経済の持続的な発展を実現するためには、資源の効率的な利用と循環型の経済システムへの移行をしなければなりません。ここでは、日本の経済の持続可能性と資源制約の関係性について、循環経済への移行など解決策を様々な角度から考察します。
資源制約と経済成長の限界
日本は資源小国であり、多くの資源を輸入に依存しています。化石燃料や希少金属など、経済活動に必要な資源の多くを海外に頼っているのが現状です。この資源制約は、日本経済の持続可能性を考える上で重要な問題となっています。
世界的に見ても、資源の枯渇や環境破壊が進む中、従来型の資源多消費型の経済成長は限界に直面しつつあります。有限な資源を前提とした経済モデルから、持続可能な経済モデルへの転換が求められているのです。
この問題に対応するためには、資源生産性の向上と、資源循環の促進が必要です。資源生産性とは、単位あたりの資源投入量に対する経済的な付加価値の割合のことを指します。この資源生産性を高めることで、少ない資源投入で大きな経済的価値を生み出すことが可能になります。
また、資源循環の促進も重要です。資源を繰り返し利用することで、新たな資源の投入を最小限に抑えることができます。リサイクルやリユース(再使用)、リマニュファクチャリング(再製造)などの取り組みを通じて、資源の循環利用を進めることが求められます。
資源生産性の向上
天然資源の効率的な利用を促進し、単位当たりの生産高を上げることで、資源消費量を抑制する必要があります。
資源循環の促進
使用済み製品や廃棄物からの資源回収を進め、リサイクルや再利用を拡大することで、新たな資源投入を最小限に抑える循環型経済への移行が求められています。
日本は、エネルギー資源や鉱物資源のほとんどを海外から輸入しています。具体的には、原油の約9割、天然ガスの約8割、石炭の99%以上を輸入に依存しており、これは先進国の中でも特に高い数値です。日本のエネルギー自給率は非常に低く、原油で0.3%、天然ガスで2.6%程度にとどまっています。
このような状況は、日本が地理的に島国であることや、国内に豊富なエネルギー資源が存在しないことが主な要因です。加えて、国土が狭く、地質的にも資源探査や開発が難しいため、国内生産による自給は限界があります。
輸入先の多様性とリスク
日本のエネルギー供給は中東地域に大きく依存しており、特にサウジアラビアやアラブ首長国連邦からの輸入が中心です。しかし、中東情勢の不安定さや海上輸送に伴うリスク(例:海賊やテロ)などが、日本のエネルギー安全保障を脅かしています。このため、日本政府はエネルギー供給源の多様化を図る必要があります。近年では、オーストラリアやアメリカからの輸入も増加していますが、全体としての依存度は依然として高いままです。
経済活動への影響
資源の輸入依存度が高いことは、日本経済にさまざまな影響を及ぼします。まず、国際的なエネルギー価格の変動に敏感であり、これが国内経済に直接的な影響を与えます。特に原油価格の急騰は、輸送コストや製造コストを押し上げ、最終的には消費者物価にも反映されることになります。
また、日本は工業立国であり、多くの金属資源を必要としていますが、その大部分も輸入に依存しています。これら金属資源は、自動車や電子機器など、日本の主要産業に必須です。このため、鉱物資源の安定供給も経済活動において重要な要素となります。
持続可能性への課題
このような資源制約は、日本経済の持続可能性を考える上で重要な問題です。エネルギー自給率が低いため、国内で再生可能エネルギー源(太陽光や風力など)の開発を進める必要があります。しかし、この転換には時間と投資が必要であり、簡単には実現できません。
さらに、日本政府はエネルギー政策として原子力発電を位置づけていますが、安全性や廃棄物処理などの問題も抱えており、社会的な合意形成が求められています。このような背景から、日本はエネルギー政策を見直しつつ、新たな技術革新を促進する必要があります。
循環経済への移行
資源制約の問題に対応し、持続可能な経済を実現するためには、循環経済(サーキュラーエコノミー)への移行が重要な鍵を握っています。循環経済とは、資源を可能な限り循環させ、廃棄物の発生を最小限に抑える経済システムのことを指します。
循環経済では、製品の設計段階から、長寿命化やリサイクル、リユースを前提とした設計が行われます。また、製品のサービス化も重要な要素です。製品を売るのではなく、製品の機能をサービスとして提供するビジネスモデルへの転換が求められます。
例えば、家電製品などでは、リースやシェアリングのビジネスモデルが注目されています。ユーザーは製品を購入するのではなく、必要な期間だけ製品を借りて使用します。製品の所有者である企業は、製品のメンテナンスや回収、リサイクルなどを行います。このようなビジネスモデルの転換は、資源の効率的な利用と、廃棄物の削減につながります。
日本政府も、循環経済への移行を重要な政策課題として位置づけています。2018年には「第四次循環型社会形成推進基本計画」が閣議決定され、2030年までに資源生産性を約50%向上させることなどが目標として掲げられました。
家電製品などでは、リースやシェアリングのビジネスモデルが注目されています。 製品を所有するのではなく、機能を一時的に利用するサービスを提供することで、製品の長期利用が可能になり、資源の有効活用につながります。
製品設計の工夫
耐久性の高い素材の選定
修理しやすい構造
部品の標準化と交換性の確保
リサイクルしやすい素材の使用
分解が容易な設計
サービス化の例
家電製品のリース
自動車のシェアリング
照明のサブスクリプション
製品のパフォーマンスに応じた課金
第四次循環型社会形成推進基本計画では、2030年度までに資源生産性を約50%向上させることが目標として掲げられています。
2000年度から2015年度にかけて約23%向上した資源生産性を、2030年度に約50%向上させることを目指す。
また、同計画では資源生産性向上に向けた取組として、IoTの活用による地域の資源生産性向上への支援や、サーキュラーエコノミーの市場拡大への対応などが挙げられています。
プラスチック資源循環の推進
循環経済への移行を進める上で、プラスチック資源の循環は特に重要な課題の一つです。プラスチックは、その利便性から幅広い分野で使用されていますが、一方で、環境中への流出や、焼却処理に伴う温室効果ガスの排出など、様々な問題を引き起こしています。
この問題に対応するため、日本政府は2019年に「プラスチック資源循環戦略」を策定しました。この戦略では、2030年までにワンウェイプラスチック(使い捨てプラスチック)の25%排出抑制や、プラスチック製容器包装の60%リユース・リサイクルなどの野心的な目標を掲げています。
また、2022年には「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」(通称:プラスチック資源循環促進法)が施行されました。この法律は、プラスチック廃棄物の排出抑制とリサイクルの促進を目的としたもので、プラスチック製品の設計段階からリサイクルを想定した設計を求めるなど、画期的な内容となっています。
プラスチック資源循環を進めるためには、技術革新も欠かせません。バイオプラスチックや生分解性プラスチックの開発・普及や、ケミカルリサイクル(化学的なリサイクル)の実用化など、新たな技術の社会実装が期待されています。
バイオプラスチック
植物由来の原料から作られ、生分解性や柔軟性などの特徴的な性質を持つ
代表例としてポリ乳酸(PLA)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)などがある
生分解性プラスチック
微生物によって分解される性質を持つ
代表例としてポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリ乳酸(PLA)、ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)などがある
ケミカルリサイクル
廃プラスチックを化学的に分解し、モノマーやプラスチック原料に戻す技術
熱分解や溶剤分解などの方法があり、高度資源循環を実現できる
プラスチックは軽量で丈夫、加工しやすいという特徴から、私たちの生活に欠かせないものとなっています。しかし、自然界で分解されにくいため、不適切に処理されると深刻な環境問題を引き起こします。
プラスチック資源の循環は重要な課題であり、以下のような取り組みが必要です。
使用量の削減
ワンウェイプラスチック製品の使用を控え、マイバッグの利用などを促進する
リサイクルの推進
プラスチック製容器包装の分別収集率を向上させる
回収されたプラスチックを化学的にリサイクルし、新たな製品の原料とする
適正処理の徹底
焼却処理に伴うCO2排出を抑えるため、バイオマスプラスチックの利用を拡大する
不法投棄やポイ捨ての防止、清掃活動の推進により、プラスチックごみの海洋流出を防ぐ
社会全体での取り組み
企業、行政、消費者が一体となって、プラスチックの適切な使用と循環利用を推進する
プラスチックは利便性が高く、今後も使用が続くと考えられます。しかし、環境への影響を最小限に抑えるため、社会全体でスマートにプラスチックを使いこなしていく必要があります。
企業の役割と ESG 投資の拡大
循環経済への移行を進める上で、企業の役割は極めて重要です。企業活動が資源の利用と深く関わっているからです。企業には、製品やサービスのライフサイクル全体を通じて、資源の効率的な利用と循環を促進することが求められます。
この点で注目されるのが、ESG投資の拡大です。ESGとは、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス)の頭文字を取ったもので、企業の非財務的な要素を評価する投資手法のことを指します。ESG投資では、環境への配慮や資源循環の取り組みが重要な評価項目となります。
ESG投資の拡大は、企業の行動変容を促す重要な原動力となっています。投資家から評価されるためには、資源循環や環境配慮への取り組みが欠かせないからです。企業には、自社の事業活動が環境や社会に与える影響を的確に把握し、情報開示を進めることが求められます。
また、企業には、サプライチェーン全体での資源循環の取り組みも求められます。自社だけでなく、取引先での資源の利用状況なども把握し、改善を促すことが重要です。サプライチェーン全体での資源効率の向上が、企業の競争力強化にもつながると考えられています。
ESG投資の拡大が続いており、企業のESGに関する取り組みを示すESG評価の活用が広がっています。 ESG評価機関による評価手法には違いがあり、評価項目の設定、内容、分野別の項目、評価の観点、業種調整などで差異があることから、評価間のばらつきが生じています。
ESG評価の活用
投資家は、ESG評価機関の評価手法の改善を促しつつ、多様な視点にも価値を見出しています。 ESG評価に対する理解が深まれば、投資家がESG選好を投資判断に反映しやすくなり、ESGインテグレーションやポジティブスクリーニングなどの投資戦略の発展が期待されます。
企業によるESG情報開示
企業がESG情報を積極的に開示することで、ESGスコアの向上が期待できます。 統合報告書やウェブサイトなどで、ESGの目標、取り組み、成果、裏付けデータを開示することが推奨されています。
また、評価機関が共通して重視する項目、例えばCO2排出量削減などに優先的に取り組むことで、安定した高いESGスコアが見込めます。
消費者の意識変革と行動変容
循環経済の実現には、消費者の意識変革と行動変容も欠かせません。大量生産・大量消費・大量廃棄型のライフスタイルからの脱却が求められているのです。
この点で重要なのが、シェアリングエコノミー(共有経済)の浸透です。モノの所有からシェアへの移行は、資源の効率的な利用につながります。例えば、カーシェアリングやシェアハウスなど、様々な分野でシェアリングサービスが広がりつつあります。
また、消費者の製品選択も重要な要素です。長寿命の製品や、リサイクル素材を使用した製品、リペア(修理)可能な製品など、持続可能性に配慮した製品を選ぶことが求められます。
さらに、廃棄段階での行動変容も重要です。適切な分別やリサイクルへの協力など、消費者の行動が資源循環の促進につながります。
こうした消費者の意識変革と行動変容を促すためには、教育や啓発活動が重要な役割を果たします。学校教育の段階から、資源循環の重要性を教える取り組みが求められます。また、自治体や NPO などによる啓発活動も欠かせません。
都市と地域の資源循環
循環経済の実現には、都市と地域の資源循環も重要な要素です。都市は資源の大量消費地であると同時に、大量の廃棄物の発生源でもあります。この都市の資源代謝を円滑にすることが、持続可能な経済の実現には欠かせません。
そのためには、都市のコンパクト化と、都市と農村の連携強化が重要だと考えられています。コンパクトな都市構造は、資源の効率的な利用につながります。また、都市で発生する食品廃棄物や下水汚泥などを、農村部で肥料や土壌改良材として活用するなど、都市と農村の資源循環を促進することも重要な取り組みです。
また、地域の特性を活かした資源循環の取り組みも注目されています。例えば、森林資源が豊富な地域では、木材のカスケード利用(複数回の利用を前提とした利用方法)を進めることで、資源の価値を最大限に引き出すことができます。
こうした都市と地域の資源循環を進めるためには、自治体の役割が極めて重要です。自治体には、地域の特性を活かした資源循環の取り組みを主導し、各主体の連携を促進することが求められます。
日本の経済の持続可能性と資源制約の関係性は、まさに日本の将来を左右する重要な問題だと言えるでしょう。資源制約という現実を直視しつつ、いかに持続可能な経済システムを構築するか。それは、21世紀の日本に問われている大きな課題です。
その解決の鍵は、循環経済への移行にあると考えられています。資源を可能な限り循環させ、廃棄物の発生を最小限に抑える経済システムへの転換。それは、資源制約の問題に対応し、環境と経済の調和を図る上で必要な取り組みだと言えます。
しかし、循環経済への移行は、容易なことではありません。企業や消費者の意識変革と行動変容が求められるとともに、社会システムのパラダイムシフト(大規模な変革)が必要とされるからです。
だからこそ、政府の強力なリーダーシップが何より重要だと考えられます。明確なビジョンを示し、政策誘導によって各主体の取り組みを後押しすること。そして、社会全体での意識変革を促すこと。それが、政府に求められる重要な役割だと言えるでしょう。
同時に、企業や市民社会の主体的な取り組みも欠かせません。自らの行動のあり方を見つめ直し、資源循環型の事業活動やライフスタイルへの転換を図ること。一企業、一消費者の取り組みは小さなものかもしれません。しかし、その積み重ねが、社会全体の大きな変革の原動力となるのです。
また、技術革新への期待も大きいと言えます。リサイクル技術や代替素材の開発など、イノベーションは循環経済の実現を大きく後押しするでしょう。日本には、環境技術でも世界をリードする高い技術力があります。その強みを活かすことが、日本の循環経済への移行を加速する要素になると考えられます。
木材のカスケード利用とは
木材のカスケード利用とは、木材を複数回利用することで資源の価値を最大限に引き出す取り組みです。具体的には、以下のようなプロセスが考えられます。
木材を住宅や家具などの高付加価値製品に利用する。
使用済みの木材を合板やパーティクルボード、チップなどに再利用する。
最終的にはバイオマス燃料として熱利用する。
このように、木材を段階的に利用することで、資源の有効活用と廃棄物の削減が可能になります。
地域での取り組み事例
北海道下川町では、森林資源を活用した「森林共生社会」を構想しています。町の9割を占める森林資源を、住宅の外壁材や熱供給システムのバイオマス燃料として利用しています。地域資源を循環させることで、持続可能な地域づくりを目指しています。
鳥取県日南町でも、豊富な森林資源を活かした「木材総合カスケード利用」事業の検討が進められています。
このように、地域の特性である森林資源を最大限に活用し、木材のカスケード利用を進めることで、資源の有効利用と環境負荷の低減が期待できます。
日本の経済安全保障 追記
重要物資の備蓄と供給体制の整備
国家の安全と国民生活の安定を確保するためには、重要物資の安定供給が欠かせません。医療品、食料、エネルギーなどの戦略物資について、国家備蓄を拡充するとともに、サプライチェーンの多元化や国内生産能力の強化を図ることが重要です。危機時においても物資の安定供給を維持できるよう、官民連携の下で体制を整備していく必要があります。
国際的な経済安全保障協力の強化
グローバル化が進展する中で、経済安全保障の確保には国際協調が必要です。同志国との連携を深化させ、サプライチェーンの強靭化や重要技術の保護などに関する協力を推進することが求められます。また、国際ルールの形成に積極的に関与し、自由で公正な経済秩序の維持・発展に貢献していくことも重要です。
国際協調の強化
経済相互依存が深まる中、一国のみでは経済安全保障を守れません。同志国との連携を深め、国際協調を強化することが必要です。
多国間の対話を通じて、サプライチェーンの強靭化や重要技術の保護などについて協力関係を構築する必要があります。
サプライチェーンの強化
グローバル化によりサプライチェーンが複雑化・脆弱化しています。同盟国と連携し、サプライチェーンの多元化や国内回帰を進め、リスクを分散する必要があります。
重要技術の保護
先端技術は経済安全保障の要です。同盟国と協力し、重要技術の流出防止や国内生産能力の確保に取り組む必要があります。
開発格差の是正
経済格差の拡大は紛争の根源となります。開発支援を通じて格差是正に努め、持続可能な開発を後押しすることが安全保障にもつながります。
国際協調を基礎に、サプライチェーンの強靭化、重要技術の保護、開発格差の是正に取り組むことで、グローバル化に伴うリスクを低減し、経済安全保障を確保できます。
国内法整備と執行体制の強化
経済安全保障の法的基盤を強化するため、関連法規の整備を進めることが必要です。重要技術の流出防止や外国投資の審査、重要インフラの防護などに関する法制度を拡充するとともに、執行体制の強化を図ることが求められます。政府内の連携を強化し、機動的かつ実効性のある対応を可能とする体制づくりが急務です。
経済安全保障推進法の制定
2022年5月に経済安全保障推進法が成立しました。 この法律は、以下の4つの柱から構成されています。
特定重要物資の安定供給確保
国が重要物資を指定し、供給確保計画の認定や備蓄措置などを講じる。
特定社会基盤役務(基幹インフラ)の安定提供確保
基幹インフラの重要設備の導入・維持管理等を事前に国が審査する。
特定重要技術の開発支援
先端重要技術の研究開発を官民パートナーシップで支援する。
特許出願の非公開
安全保障上重要な発明の特許を一定期間非公開にする。
外国投資規制の強化
外国為替及び外国貿易法(外為法)が2度改正され、対内直接投資に対する規制が強化されました。 特定の業種・分野における外資規制が導入され、事前届出制や投資家への株式処分命令などの措置が可能となりました。
重要経済安保情報保護法の制定
2024年5月に、重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律が成立しました。 経済安全保障に係る重要情報を適切に保護するため、情報へのアクセス権を持つ人の適正評価を行う仕組みが創設されました。
重要インフラの防護と強靭化
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