合計2万文字】排出権取引制度と炭素リーケージ問題について考察解説レポート

 

  1. 炭素リーケージ(Carbon Leakage)とは、
  2. この炭素リーケージの問題は、
  3. まず、炭素リーケージに対処するための基本的な考え方として、
  4. 次に、排出権取引制度の設計面での工夫も重要でしょう。
  5. とはいえ、炭素リーケージ問題の抜本的な解決のためには、
  6. EUが導入を検討している炭素国境調整措置 「炭素リーケージ」のリスク
  7. カーボン・オフセットの活用も期待されます。
  8. 排出権取引制度は、温室効果ガス排出量に法的な上限を設定し、排出枠の取引を通じて排出削減を進める仕組みです。
  9. 世界の主要企業が気候変動リスクの情報開示
  10. 排出権取引制度と再生可能エネルギー普及促進策は、
  11. ただし、脱炭素ビジネスが本格的に立ち上がるためには、いくつかの課題もあります。
  12. そして、脱炭素化をビジネスチャンスと捉える発想の転換も欠かせません。
  13. 排出権取引制度は、温室効果ガスの排出削減を目的とした緩和策
  14. もう一つの重要な視点が、気候正義の問題です。
  15. 排出権取引制度は、カーボンプライシングの重要な手法の一つ
  16. もう一つの重要な論点が、イノベーションの促進です。
  17. 排出権取引制度と企業の国際競争力の関係は、
  18. 排出権取引制度の最大の利点 費用対効果の高い排出削減 排出量に明確な上限を設定
  19. 「プライスフロア」や「プライスシーリング」の仕組みを導入
  20. 排出権取引制度の国際的な連携を図る上では、各国制度間の調和が大きな課題となる。
  21. 排出権取引制度の長期的な役割
  22. 長期的な脱炭素化
  23. 現在の排出削減は、将来世代の排出可能量にも影響を及ぼす
  24. 気候正義
  25. 世代間衡平性(intergenerational equity)
  26. 途上国に排出削減を迫るのは、先進国による新たな形の植民地主義
  27. 技術移転やキャパシティビルディング(能力構築)が図られる
  28. 排出権市場の価格形成メカニズムをどう設計するか
  29. 炭素リーケージ(Carbon Leakage)とは何か解説
  30. 企業は規制の緩い国や地域に生産拠点を移転→CO2排出量は減少しない
  31. 途上国は規制が緩い
  32. 炭素リーケージ問題を解決する方法
    1. 国際的な協調体制の強化
    2. 炭素国境調整措置(CBAM)の導入 追加関税
    3. 産業別のアプローチ
    4. カーボン・オフセットの活用
    5. 消費者の意識を変える
    6. グリーン投資の促進

炭素リーケージ(Carbon Leakage)とは、

ある国や地域が温室効果ガス排出規制を強化した結果、規制の緩い国や地域に排出源が移転してしまう現象を指します。例えば、先進国が厳しい排出規制を導入すれば、企業は規制の緩い途上国に生産拠点を移すかもしれません。その結果、地球全体での排出量は減らないどころか、むしろ増える可能性すらあるのです。

この炭素リーケージの問題は、

排出権取引制度を含む気候変動政策全般に関わる重要な課題の一つと言えるでしょう。なぜなら、炭素リーケージが発生すれば、排出権取引制度の環境十全性(Environmental Integrity:目的とする環境保全上の効果を確実に達成できること)が損なわれかねないからです。

では、排出権取引制度において、炭素リーケージにどう対処すべきか。その際、国際競争力の維持と両立させるにはどうすればよいのか。環境経済学(Environmental Economics:環境問題の解決に経済学の知見を活用する学問分野)の観点から考えてみることにしましょう。

まず、炭素リーケージに対処するための基本的な考え方として、

「ボーダー調整」(Border Adjustment:国境を越える取引に対し、国内の排出規制に見合った調整を行うこと)の重要性が指摘できます。つまり、輸入品に対して、国内の排出規制に見合った負担を求める一方で、輸出品については、国内の排出規制に伴う負担を軽減する。こうした措置を通じて、国際競争条件のイコールフッティング(equal footing:公平な条件、機会均等)を確保するわけです。

とりわけ、国境炭素税(Carbon Border Tax:輸入品に対し、その生産過程で排出された炭素に応じた課税を行うこと)は、有力な選択肢の一つと言えるでしょう。EUが「炭素国境調整メカニズム」(CBAM: Carbon Border Adjustment Mechanism)の導入を検討しているのは、まさにこの考え方に基づいています。排出規制の厳しいEU域内の産業と、規制の緩い域外の産業との間の競争条件を揃えようというわけです。

ただし、こうしたボーダー調整措置には、貿易ルールとの整合性など、克服すべき課題も少なくありません。安易な保護主義に陥ることなく、国際協調を図りながら制度設計を進めることが肝要です。

次に、排出権取引制度の設計面での工夫も重要でしょう。

例えば、炭素リーケージのリスクが高い業種については、排出枠の無償割当を手厚くするなどの配慮が考えられます。実際、日本の排出量取引制度でも、製造業などの国際競争力への影響が大きい部門には、一定の無償割当が行われています。

ただし、無償割当には、排出削減インセンティブを弱める副作用もあります。企業に排出削減を促すためには、徐々に有償割当(オークション)の比率を高めていく工夫も求められるでしょう。

さらに、炭素リーケージ対策と、イノベーション促進策とのリンケージも重要な論点です。例えば、無償割当で浮いた資金を、脱炭素技術の研究開発に充てるなどの取り組みが考えられます。いわば、炭素リーケージ対策を、産業の構造転換を後押しする「梃子」として活用する発想です。

加えて、国際的なセクター別アプローチ(Sectoral Approach:業種別の国際的な排出削減の枠組み)の強化も検討に値します。鉄鋼業や化学工業など、炭素リーケージのリスクが高い業種を対象に、主要排出国間で共通の排出基準やルールを設けるわけです。国際的に調和のとれた排出規制を通じて、炭素リーケージのリスクを緩和できるかもしれません。

とはいえ、炭素リーケージ問題の抜本的な解決のためには、

より根源的な取り組みも欠かせません。つまるところ、全ての国と地域が、脱炭素化に向けて足並みを揃えることが不可欠なのです。パリ協定の枠組みの下、各国が野心的な排出削減目標を掲げ、着実に実行に移していく。そうした地道な歩みを通じてこそ、炭素リーケージのリスクも徐々に和らいでいくことでしょう。

とりわけ、日本のような先進国は、脱炭素技術の開発と普及を通じて、途上国の排出削減を後押しする役割が期待されます。二国間クレジット制度(JCM: Joint Crediting Mechanism)などを活用しつつ、パートナー国との協力を強化していく。そうした取り組みを通じて、ともに脱炭素社会への道を歩んでいく。それこそが、炭素リーケージ問題への真の「解」と言えるのかもしれません。

※「環境十全性」(Environmental Integrity)とは、排出量取引制度など環境政策の目的とする環境保全上の効果を、確実に達成できることを指します。
※「環境経済学」(Environmental Economics)とは、環境問題の解決に経済学の知見を活用する学問分野です。
※「ボーダー調整」(Border Adjustment)とは、国境を越える取引に対し、国内の排出規制に見合った調整を行うことを指します。
※「イコールフッティング」(equal footing)とは、公平な条件、機会均等のことを指します。
※「炭素国境調整メカニズム」(CBAM)とは、EU が検討している制度で、輸入品に対し、その生産過程で排出された炭素に応じた負担を求める仕組みです。
※「二国間クレジット制度」(JCM)とは、日本が推進する制度で、パートナー国での排出削減プロジェクトを通じて獲得したクレジットを、日本の排出削減目標の達成に活用できる仕組みです。

EUが導入を検討している炭素国境調整措置 「炭素リーケージ」のリスク

域内の排出量取引制度を補完する意義を持っています。域内の企業が排出削減の費用を負担する一方で、域外の企業が排出コストを負担せずに製品を輸出できれば、公平な競争条件が損なわれるおそれがあります。炭素国境調整措置は、こうした「炭素リーケージ」のリスクに対処するための措置と位置付けられています。

しかし、炭素国境調整措置の導入には、国際貿易ルールとの整合性など、様々な課題があります。WTO協定上、輸入品に対する差別的な扱いは原則として禁止されています。炭素国境調整措置が、この原則に抵触しないか、慎重な検討が必要です。また、炭素国境調整措置が、途上国の輸出に悪影響を及ぼし、その持続可能な発展を阻害するおそれも指摘されています。
こうした課題に対処するためには、国際社会の対話と協調が不可欠です。例えば、パリ協定第6条では、国際的な炭素市場メカニズムの構築に向けたルール作りが進められています。こうした取り組みと連動させつつ、炭素国境調整措置の導入を検討することが重要でしょう。また、途上国の排出削減や適応の取り組みを支援するための資金メカニズムとして、炭素国境調整措置の収入を活用することも一案かもしれません。
加えて、排出権取引や炭素国境調整措置だけでなく、サプライチェーン全体での脱炭素化を促す仕組み作りも重要です。例えば、『スコープ3排出量』の削減に向けて、大企業と中小企業が協働する取り組みを評価・支援する制度などが考えられます。また、中小企業の脱炭素化を後押しするための技術支援や資金支援なども求められるでしょう。

カーボン・オフセットの活用も期待されます。

自らの排出量の一部を、他の場所での排出削減・吸収でオフセットする取り組みは、排出権取引を補完する役割を果たしうるでしょう。例えば、途上国での再生可能エネルギー事業や森林保全事業への投資を通じて、先進国の企業や個人が自らの排出量の一部をオフセットすることなどが考えられます。
ただし、カーボン・オフセットには、排出削減の追加性や永続性など、様々な課題もあります。安易なオフセットに頼るのではなく、まずは自らの排出削減に最大限取り組むことが大切です。その上で、どうしても削減が困難な排出量について、質の高いクレジットでオフセットしていく。そうしたオフセットと、自らの排出削減努力とのバランスを取ることが重要だと考えます。
排出権取引と炭素国境調整措置、カーボン・オフセットなど、脱炭素化に向けた様々な手段が議論されるようになりました。パリ協定が目指す今世紀後半の脱炭素社会の実現に向けて、これらの手段をどう組み合わせ、実効性のある対策を打ち出していくのか。各国・地域レベル、企業レベル、そして市民レベルでの知恵の結集が求められています。

排出権取引制度は、温室効果ガス排出量に法的な上限を設定し、排出枠の取引を通じて排出削減を進める仕組みです。

この制度は、費用対効果の高い排出削減を促すとともに、排出量の確実な管理を可能にする政策手段として位置付けられています。
しかし、気候変動問題の解決には、こうした法的な規制だけでなく、企業や市民社会の自主的な取り組みも欠かせません。例えば、多くの企業が、法律で義務付けられたレベルを上回る削減目標を掲げ、再生可能エネルギーの導入や省エネルギーの推進に取り組んでいます。また、自治体レベルでも、再エネ100%を目指す自治体が増えるなど、意欲的な目標設定と行動が広がりつつあります。
こうしたボランタリーな取り組みは、社会全体の意識変革を促し、脱炭素化への機運を高める上で重要な役割を果たします。同時に、ボランタリーな取り組みの効果を測定・検証し、透明性を確保することも大切です。そのためには、企業や自治体などの取り組みを評価し、優れた取り組みを認証・表彰する仕組みなどが有効でしょう。
また、ボランタリーな取り組みを後押しするための政策的な支援も求められます。例えば、中小企業による脱炭素化の取り組みを支援するための補助金や、市民によるクラウドファンディングを通じた再エネ投資の促進など、様々な施策が考えられます。排出権取引制度とこうしたボランタリーな取り組みを、車の両輪として位置付け、効果的に組み合わせていくことが重要だと考えます。

世界の主要企業が気候変動リスクの情報開示

加えて、排出権取引制度のもとでの情報開示のあり方も、重要な論点の一つです。企業が自らの気候変動リスクを適切に開示することは、投資家の意思決定を助け、脱炭素経営への転換を促す上で不可欠の要素です。実際、金融安定理事会(FSB)によって設立された気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言を受け、世界の主要企業が気候変動リスクの情報開示に取り組み始めています。
排出権取引制度においても、企業の情報開示を促進する仕組みが必要でしょう。例えば、排出量や排出削減対策、排出枠の保有状況などに関する情報を、統一的なフォーマットで開示することを義務付けるなどの措置が考えられます。また、開示された情報を基に、投資家が企業の脱炭素化への取り組みを評価し、対話を行う枠組み作りも重要です。こうした情報開示と対話のサイクルを通じて、企業の脱炭素経営を加速していくことが期待されます。
ただし、情報開示のあり方をめぐっては、開示の範囲やタイミング、第三者検証のあり方など、詰めるべき課題も多くあります。企業の競争力への影響などにも十分に配慮しつつ、建設的な議論を重ねながら、最適解を模索していく必要があるでしょう。
排出権取引制度は、気候変動対策の重要なツールの一つですが、それ自体が目的ではありません。大切なのは、この制度を梃子に、社会の隅々にまで脱炭素の意識と行動を浸透させていくことです。企業や投資家、自治体、市民など、それぞれの立場から脱炭素化に向けた行動を起こす。そうした自発的な取り組みを、排出権取引制度が後押しし、加速させる。そんな好循環が生まれることを願ってやみません。

排出権取引制度と再生可能エネルギー普及促進策は、

ともに脱炭素社会の実現を目指す重要な政策手段です。しかし、両者の関係性は必ずしも単純ではありません。
例えば、再エネ普及が進み、電力部門の排出量が大幅に減少すれば、排出権価格が下落する可能性があります。排出権価格の下落は、他の部門での排出削減意欲を削ぐ恐れがあります。逆に、排出権価格が高騰すれば、企業は排出削減や再エネ投資に積極的になるでしょう。しかし、あまりに高い排出権価格は、企業の国際競争力を損ねる可能性もあります。
このように、排出権取引と再エネ普及の関係性は、複雑な相互作用を伴います。両者を効果的に組み合わせるためには、慎重な制度設計が求められます。
例えば、排出権の供給量を計画的に絞り込んでいくことで、排出権価格を適切な水準に維持することが考えられます。また、排出権オークションの収入を再エネ普及支援に充てるなど、両制度の連動を図ることも有効でしょう。加えて、電力部門とその他の部門を分離して、別々の排出権市場を設けるといった工夫も検討に値します。
いずれにせよ、排出権取引と再エネ普及促進策は、相互補完的に設計・運用することが重要です。両者の整合性を図りつつ、脱炭素化への確実な道筋を描いていく必要があります。
他方、排出権取引制度は、新たなビジネスチャンスを生み出す可能性も秘めています。
例えば、排出権の売買を通じたビジネスが挙げられます。排出削減コストが低い企業が排出量を大幅に削減し、余剰の排出権を売却することで収益を得る。そうしたビジネスモデルが成立する余地があります。
また、IoTやAIなどのデジタル技術を活用して、工場や建物のエネルギー効率を高める取り組みも、大きな注目を集めています。デジタル技術の力を借りて排出量を削減し、余剰の排出権を売却する。そんな新しいビジネスが生まれつつあります。
加えて、排出削減に貢献する新技術や新製品の開発も、有望なビジネス領域の一つです。排出量の少ない次世代自動車の開発や、植物由来プラスチックの事業化など、脱炭素技術を武器に新市場を切り開こうとするベンチャー企業の動きも活発化しています。

ただし、脱炭素ビジネスが本格的に立ち上がるためには、いくつかの課題もあります。

第一に、政策面での支援が欠かせません。税制優遇や補助金、規制緩和など、脱炭素ビジネスを後押しするための政策パッケージを、戦略的に講じていく必要があります。
第二に、ビジネスを支える金融面での基盤整備も重要です。環境関連ビジネスへのESG投資を拡大するとともに、長期のリスクマネーを供給する仕組みを強化することが求められます。
第三に、脱炭素ビジネスを担う人材の育成も急務です。環境技術とビジネス感覚を兼ね備えた「環境イノベーター」とも呼ぶべき人材を、産学官が協力して育てていく必要があるでしょう。
排出権取引制度は、脱炭素ビジネスを後押しする重要な基盤の一つです。この制度を梃子に、企業の創意工夫を引き出し、イノベーションを加速させる。そうした好循環を生み出すことが期待されています。
もちろん、排出権取引制度だけで、脱炭素ビジネスが花開くわけではありません。政策支援や金融基盤の整備、人材育成など、様々な課題に同時に取り組んでいく必要があります。官民が一丸となって、息の長い挑戦を続けることが何より大切です。

そして、脱炭素化をビジネスチャンスと捉える発想の転換も欠かせません。

かつては環境規制の強化を避けようとした企業も、今や脱炭素経営を競争力の源泉ととらえ始めています。「ビジネスと環境の二兎を追う」のではなく、「環境への貢献を通じて新しいビジネスを生み出す」。そんな発想の大転換が、今、求められているのです。
排出権取引制度は、そうした発想の転換を後押しする重要な装置です。

排出権取引制度は、温室効果ガスの排出削減を目的とした緩和策

ですが、気候変動がもたらす悪影響への適応策とも無関係ではありません。例えば、排出権オークションからの収入の一部を、気候変動の影響に脆弱なコミュニティの適応策に充てるといったアイデアが挙げられます。開発途上国の沿岸部の防災インフラ整備や、農業分野の気候変動適応策などに、排出権取引の収入を活用する。そうした取り組みを通じて、緩和策と適応策の統合的なアプローチを模索することができるでしょう。
また、適応分野での取り組みを排出権取引制度に組み込むことも検討に値します。例えば、適応策に取り組む企業にインセンティブを与えるため、排出権の無償割当に一定の配慮を行うことなどが考えられます。あるいは、適応プロジェクトで創出されたクレジットを、排出権取引制度に組み込むことも一案かもしれません。
ただし、こうした取り組みを進める際には、適応分野特有の課題にも留意が必要です。緩和策とは異なり、適応策の効果を定量的に測定することは容易ではありません。また、適応策の便益は、特定の地域に限定される場合が多いのも事実です。
したがって、排出権取引制度と適応策を連動させる際には、慎重な制度設計が求められます。各国・地域の事情を十分に踏まえつつ、緩和と適応のシナジー(相乗効果)を追求する。そうした丁寧なアプローチが肝要だと考えます。

もう一つの重要な視点が、気候正義の問題です。

排出権取引制度をめぐっては、先進国と途上国の間の公平性や、制度の恩恵が社会の一部に偏るのではないかといった懸念も指摘されています。
例えば、途上国の中には、先進国による排出権の買い占めが、自国の排出枠を奪うのではないかと危惧する声もあります。また、排出権取引に参加できる大企業と、参加が困難な中小企業の間で、制度の恩恵に差が生じるのではないかとの指摘もあります。
こうした問題に対処するためには、排出権取引制度の設計に当たって、社会的弱者への十分な配慮が求められます。途上国の排出枠を一定程度確保したり、中小企業の参加を支援するための仕組みを用意したりするなど、制度の包摂性を高める工夫が必要不可欠です。
加えて、排出権取引の収入を、貧困対策や社会開発に振り向けるといった視点も重要でしょう。気候変動対策と貧困削減を同時に進める「コベネフィット・アプローチ」とも呼ぶべき発想です。排出権取引を通じて得た資金を、社会的弱者の生活改善に活用する。そうした取り組みが求められています。
もちろん、こうした課題への対処は容易ではありません。しかし、気候変動問題の解決には、環境面での効果だけでなく、社会的な公正の実現も欠かせない。そうした認識のもと、粘り強い対話を重ねながら、包摂性の高い制度設計を追求していくことが肝要だと考えます。
気候変動は、単に環境問題というだけでなく、社会問題、倫理の問題でもあります。未来世代や、脆弱な立場にある人々の視点に立って、私たちのあり方を問い直す必要がある。排出権取引制度もまた、そうした問い直しの俎上に載せられるべき政策手段の一つでしょう。
制度としての完璧さを追求するだけでなく、社会的な対話を重ねながら、より良い仕組みを模索し続ける。そうした不断の努力が、気候正義の実現につながるのだと、私は考えます。
環境と経済の統合、先進国と途上国の協調、そして社会的弱者への視点。排出権取引制度は、こうした複雑な課題が交錯する、まさに現代社会の縮図とも言える政策領域だと言えましょう。この領域での議論の行方は、気候変動問題への対処のみならず、持続可能な社会づくりにも大きな示唆を与えてくれるはずです。

排出権取引制度は、カーボンプライシングの重要な手法の一つ

投げ銭

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