子どもの貧困問題とワーキングプア働く貧困層 格差や不平等の拡大 地域間格差 第9章~15章 3万文字

 

  1. 第9章 子どもの貧困問題とその解決策
    1. 子どもの貧困の現状と要因
    2. 子どもの貧困が成長・発達に及ぼす影響
    3. 子どもの貧困と教育格差の連鎖
    4. 子どもの貧困対策の重要性と課題
    5. 子育て支援策の拡充と包括的なアプローチ
  2. 第10章 ワーキングプアの実態と支援策
    1. ワーキングプアの定義と現状
    2. ワーキングプアの要因と背景
    3. ワーキングプアが直面する生活上の困難
    4. ワーキングプア支援策の必要性と課題
    5. 生活困窮者自立支援の強化と包括的アプローチ
  3. 第11章 地域間格差の問題と対策
    1. 地域間格差の現状と要因
    2. 地域間格差が経済・社会に及ぼす影響
    3. 地方の雇用問題と人口流出
    4. 地域活性化策と雇用創出の取り組み
    5. 地方創生と持続可能な地域社会の構築
  4. 第12章 労働市場の変化と新たな雇用形態
    1. 労働市場の構造変化と雇用の多様化
    2. テレワークとフレックスワークの普及
    3. ギグエコノミーの台頭と雇用の流動化
    4. 新たな雇用形態がもたらす機会と課題
    5. 雇用制度改革と労働者保護の在り方
  5. 第13章 ダイバーシティ&インクルージョンと雇用
    1. ダイバーシティ&インクルージョンの意義と現状
    2. 女性の雇用問題とジェンダー不平等
    3. 障がい者の雇用促進と就労支援
    4. 外国人労働者の受け入れと社会統合
    5. 多様な人材の活躍推進と包摂的な労働環境の整備
  6. 第14章 雇用問題解決に向けた政策提言
    1. 雇用の安定と質の向上に向けた政策
    2. 教育・人材育成政策の改革
    3. 社会保障制度の再設計と持続可能性の確保
    4. ワーク・ライフ・バランスの推進と働き方改革
    5. 包摂的な社会の実現に向けた総合的アプローチ
  7. 第15章 持続可能な社会の実現に向けて
    1. 経済成長と分配の調和
    2. 多様な価値観の尊重と社会的包摂
    3. 雇用問題解決における多様な主体の役割
    4. 持続可能な開発目標(SDGs)と雇用問題
    5. 望ましい社会の姿と実現に向けた道のり

第9章 子どもの貧困問題とその解決策

子どもの貧困は、子どもの健やかな成長と発達を阻害し、将来にわたって負の影響を及ぼす深刻な問題です。貧困の連鎖を断ち切り、全ての子どもたちが平等に機会を得られる社会の実現は、私たち全ての責務と言えます。本章では、子どもの貧困の実態とその影響を明らかにするとともに、貧困の連鎖を断ち切るための取り組みについて議論します。

子どもの貧困の現状と要因

日本では、7人に1人の子どもが相対的貧困状態にあるとされています。2019年の調査では、17歳以下の子どもの相対的貧困率は13.5%でした。これは、OECD加盟国の中でも高い水準にあります。
子どもの貧困の背景には、様々な要因があります。親の低所得や失業、ひとり親家庭であることなどが、子どもの貧困リスクを高める要因として指摘されています。特に、母子家庭の貧困率は50%を超えており、深刻な状況にあります。

2018年時点の日本の子ども(18歳以下)の相対的貧困率は13.5%です。
これは日本の子どもの約7人に1人が相対的貧困状態にあることを示しています。
相対的貧困とは、可処分所得が中央値の半分以下にある状態を指します。
2019年の調査でも、17歳以下の子どもの相対的貧困率は13.5%と報告されています。

また、非正規雇用の増加や労働条件の悪化なども、子育て世帯の貧困化に拍車をかけています。働いているにもかかわらず貧困状態にある「ワーキングプア」の問題は、子どもの貧困とも密接に関連しています。
さらに、教育費の高騰や、社会的な支援の不足なども、子どもの貧困を助長する要因となっています。貧困家庭では、教育費の負担が重く、子どもの教育機会が制限されがちです。また、貧困家庭に対する社会的な支援や理解の不足も、問題を深刻化させる一因となっています。

日本では、教育にかかる費用が家庭に大きな負担を強いています。特に、教育費の中で学校外活動(塾や習い事など)が占める割合は高く、家庭が自己負担する教育支出の約6〜7割を占めています。このため、経済的に厳しい家庭では、教育機会が大きく制限されます。具体的には、貧困家庭の子どもたちは、学習塾や習い事に通うことができず、結果として学力や社会経験の格差が拡大します。
さらに、日本は教育への公的支出が国際的に見て低い水準にあり、家庭が自ら教育費を負担する割合が非常に高いことも問題です。特に高等教育では、その負担が顕著であり、多くの家庭が奨学金やアルバイトで学費を賄わざるを得ない状況です。このような背景から、経済的な理由で進学を諦めたり、進学しても学費の負担から精神的なストレスを抱える学生が増えています。

貧困家庭への社会的支援は十分とは言えません。例えば、ひとり親家庭の貧困率は約50%と非常に高く、これらの家庭には特別な支援が必要です。しかし、実際には多くの支援制度が存在するにもかかわらず、その利用や情報提供が不十分であるため、多くの家庭が必要な支援を受けられない状況です。
また、教育機関内での相談体制やカウンセリングサービスも整備されつつありますが、それでもなお、多くの子どもたちが孤立し、必要なサポートを受けられない状態です。社会全体として貧困問題に対する理解や関心が不足していることも、この問題を深刻化させる一因となっています。

教育格差は世代間で連鎖する傾向があります。親世代が貧困であれば、その子どもたちも同様の環境に置かれやすく、結果として貧困状態から抜け出すことが難しくなります。日本では約9人に1人の子どもが貧困状態にあり、その影響は学力不足や社会経験の欠如として現れます。このような状況は、将来的には労働市場での競争力にも影響し、経済的損失を生む要因となります。

子どもの貧困が成長・発達に及ぼす影響

子どもの貧困は、子どもの健康、学力、社会性など、様々な面で子どもの成長と発達に悪影響を及ぼします。
貧困家庭の子どもは、十分な栄養が摂れなかったり、医療サービスを受けられなかったりすることで、健康面でのリスクが高まります。また、ストレスフルな家庭環境は、子どもの心身の健康を脅かす要因ともなります。
学力面でも、貧困家庭の子どもは不利な状況に置かれがちです。教育費の負担から十分な学習機会を得られなかったり、学習に必要な環境が整わなかったりすることで、学力の向上が阻害されます。また、貧困による心理的ストレスは、学習意欲の低下にもつながります。
さらに、貧困は子どもの社会性の発達にも影を落とします。貧困家庭の子どもは、社会的な活動に参加する機会が限られ、他者との交流や多様な経験の機会を逸しがちです。これは、コミュニケーション能力や社会適応力の発達を阻害する恐れがあります。
このように、子どもの貧困は、子どもの潜在的な可能性を奪い、その成長と発達を多面的に阻害します。貧困の影響は、子ども時代だけにとどまらず、将来の教育達成や就労、生活水準などにも長期的な影響を及ぼします。

貧困家庭の子どもたちは、家に帰っても勉強を教えてくれる親がいないため、学習を定着させることが困難です。また、朝食を摂っていないケースもあり、授業に集中できない子どもが多いです。

貧困家庭の子どもたちは、学習に必要な環境が整わないことが多く、学力の向上が阻害されやすくなります。特に、塾や習い事などの学校外での学習機会が少ないことが教育格差の要因になります。

貧困家庭の子どもたちは、一般的な水準の家庭よりも学力が低い傾向があります。日本財団が発表したデータによると、貧困家庭の子どもの学力が低い傾向があることが明らかです。

これらの問題を解消するためには
学習サポートの提供
「放課後子ども教室」という取り組みでは、安全・安心な子どもの活動拠点を設け、地域の方々の参画を得て、学習やスポーツ・文化芸術活動等の機会を提供しています。

「児童館」という施設では、児童に健全な遊びを与え、健康を促進し、情操を豊かにすることを目的としています。全国に4,500か所以上設置されており、設備には遊戯室や図書館があるため遊びと学習どちらも行えます。

文部科学省が推進する「家庭の社会経済的背景(SES)が困難な児童生徒への支援」では、家庭の教育費負担軽減や、放課後等を利用した補充的な学習サポートなど、多くの取り組みが行われています。
 
貧困家庭では、教育に必要な費用を捻出することが困難です。塾や習い事、学習教材の購入ができないため、学習機会が制限されます。例えば、日本の大学進学率は全世帯で73.2%ですが、生活保護世帯では33.1%にとどまります。この差は、経済的な背景による教育機会の不平等を示しています。

家庭環境も重要な要素です。貧困家庭では、静かに勉強できる場所や必要な学習資源が不足していることが多いです。このような環境では、集中して学ぶことが難しく、結果として学力の向上が妨げられます。

貧困による心理的ストレスは、子どもの学習意欲にも影響を与えます。経済的な不安や家庭内の問題は、子どもにとって大きな負担となり、自信を喪失させる要因となります。また、朝食を摂れない子どもも多く、栄養不足から授業に集中できないこともあります。

学力だけでなく、「非認知能力」—協調性や自己肯定感など—も貧困によって影響を受けます。これらの能力は社会生活において重要であり、貧困家庭で育った子どもは社会適応能力が低くなる傾向があります。

貧困は世代を超えて連鎖する傾向があります。教育機会が限られることで低学歴となり、その結果として低所得の職業に就くことになりやすいです。このようにして、貧困は次世代にも影響を及ぼし続けることになります。

貧困家庭の子どもは、友人との交流や社会経験が不足しがちです。このため、社会で必要とされるスキルやネットワークを構築する機会が減少し、自立した生活を送ることが難しくなります。
 

子どもの貧困と教育格差の連鎖

子どもの貧困は、教育の格差を生み、貧困の世代的な連鎖を引き起こす要因ともなっています。貧困家庭の子どもは、教育の機会や質の面で不利な状況に置かれることで、教育達成度が低くなる傾向があります。
例えば、貧困家庭では、学習塾や習い事など、教育の補完的なサービスを利用することが難しくなります。また、大学進学など、高等教育の機会も経済的な制約から限定されがちです。こうした教育機会の格差は、子どもの学力や学歴に直結し、将来のキャリアや所得水準に大きな影響を及ぼします。
加えて、貧困家庭の子どもは、ロールモデルや教育への動機づけを得る機会も乏しくなりがちです。親の教育水準が低かったり、教育の重要性への認識が低かったりすることで、子どもの教育意欲が損なわれる恐れもあります。
こうした教育の格差は、貧困の世代的な連鎖を生み出します。教育水準が低いことで、安定的な雇用や十分な所得を得ることが難しくなり、その結果、自らの子どもも貧困に陥るリスクが高まるのです。貧困と教育格差の負の連鎖は、社会の不平等を固定化し、格差の拡大を招く危険性をはらんでいます。

学習支援拠点やオンラインなどで、様々な団体が貧困家庭の子どもたちに無償の学習支援を提供している。
奨学金制度を活用して、貧困家庭の子どもたちの進学を支援する取り組みも行われている。
物品の寄付も支援の一つとして考えられるが、必要なタイミングで必要なものが届かない可能性もある。
経済的な理由で塾や習い事を諦めた家庭は68.8%にものぼり、これが教育格差の深刻化につながっている。

子どもの貧困対策の重要性と課題

子どもの貧困問題の解決は、個々の子どもの幸福のためだけでなく、社会全体の持続可能性と公平性を確保する上でも極めて重要な課題です。貧困の連鎖を断ち切り、全ての子どもたちに平等な機会を保障することは、社会の役割と言えます。
子どもの貧困対策には、経済的支援、教育支援、生活支援など、多面的なアプローチが求められます。具体的には、児童手当の拡充や、教育費の無償化、学習支援の充実、居場所づくりの推進などが挙げられます。また、ひとり親家庭への支援策の強化や、ワーキングプアの解消に向けた取り組みも重要です。
しかし、子どもの貧困対策には課題も多くあります。支援が必要な家庭に支援が行き届かなかったり、支援の質が不十分だったりする問題があります。また、貧困の問題を個人の責任と見なす風潮や、貧困家庭への偏見・差別なども、支援を妨げる要因となっています。
加えて、子どもの貧困問題は、雇用、教育、福祉など、様々な分野にまたがる複合的な問題でもあります。省庁間の縦割りを超えた連携や、地域社会の協力体制の構築など、総合的な取り組みが求められています。

「子どもの貧困」というフレームワークの登場により、これまで自己責任とみなされてきた離婚等による母子世帯への社会の見方が変化しつつあります。
母子世帯の貧困率が高いことが注目されるようになったことで、女性の経済的自立が個人の自助努力の問題ではなく構造的な問題であることが明らかになってきました。にもかかわらず、死別母子世帯と離婚/非婚母子世帯の差異化を図る方策は、負のサンクションとなり、構造的な問題を個人の努力の問題に転換させる「社会的仕掛け」となってきたのです。
つまり、日本社会では長らく、女性の経済的自立を個人の責任と見なす風潮が支配的でしたが、近年、子どもの貧困問題の顕在化により、この見方に変化が生じつつあるといえます。しかし、依然として、女性の意思や意志を尊重しない制度設計が存在し、女性への構造的な暴力が行使されているのが現状です。

子育て支援策の拡充と包括的なアプローチ

子どもの貧困問題の解決に向けては、子育て支援策の拡充と、包括的なアプローチが不可欠です。全ての子育て世帯が安心して子育てできる環境を整備するとともに、貧困家庭に対する重点的な支援を強化することが求められます。
子育て支援策としては、児童手当の拡充や、保育サービスの充実、医療費助成の拡大など、子育ての経済的負担を軽減する施策が重要です。また、ワーク・ライフ・バランスの推進や、男性の育児参加の促進など、子育てと仕事の両立を支える取り組みも欠かせません。
貧困家庭への支援としては、経済的支援に加え、子どもの学習支援や居場所づくり、親への養育支援など、多面的な支援が求められます。また、支援を必要とする家庭を早期に発見し、適切な支援につなげるための仕組みづくりも重要です。
さらに、子どもの貧困問題への理解を深め、社会全体で子どもを支える意識を醸成することも欠かせません。貧困の問題を個人の責任と見なすのではなく、社会構造的な問題として捉え、解決に向けて社会全体で取り組む必要があります。
子どもの貧困問題の解決には、政府、自治体、学校、企業、NPO、地域社会など、様々な主体の協働が不可欠です。それぞれの立場から、できることを着実に実行していくことが求められています。全ての子どもたちが夢と希望を持って成長できる社会の実現に向けて、主体的に行動することが何より重要だと言えます。

「子どもの貧困」というフレームワークの登場により、これまで自己責任とみなされてきた離婚等による母子世帯への社会の見方が変化しつつあります。
母子世帯の貧困率が高いことが注目されるようになったことで、女性の経済的自立が個人の自助努力の問題ではなく構造的な問題であることが明らかになってきました。にもかかわらず、死別母子世帯と離婚/非婚母子世帯の差異化を図る方策は、負のサンクションとなり、構造的な問題を個人の努力の問題に転換させる「社会的仕掛け」となってきたのです。
つまり、日本社会では長らく、女性の経済的自立を個人の責任と見なす風潮が支配的でしたが、近年、子どもの貧困問題の顕在化により、この見方に変化が生じつつあるといえます。しかし、依然として、女性の意思や意志を尊重しない制度設計が存在し、女性への構造的な暴力が行使されているのが現状です。

第10章 ワーキングプアの実態と支援策

ワーキングプアとは、働いているにもかかわらず、貧困から抜け出せない状態にある人々を指します。雇用の不安定化や低賃金労働の増加を背景に、ワーキングプアの問題は年々深刻化しています。本章では、ワーキングプアの実態とその要因を明らかにし、貧困からの脱却に向けた支援策について議論します。

ワーキングプアの定義と現状

ワーキングプアは、一般的に、年間収入が生活保護基準以下の水準にある就労者を指します。日本では、2019年時点で、働く世帯のうち約4割が年収200万円以下の状態にあると推計されています。特に、非正規雇用者やシングルマザーなどで、ワーキングプアの割合が高くなっています。
ワーキングプアの背景には、非正規雇用の拡大や最低賃金の低さ、社会保障の不十分さなどの構造的な問題があります。非正規雇用は、正社員に比べて賃金水準が低く、雇用も不安定です。また、日本の最低賃金は、生活保護水準を下回る水準にとどまっており、生活を維持するには不十分な状況にあります。
加えて、ワーキングプアは、社会保険の適用から外れていたり、福祉サービスの利用が困難だったりするなど、社会的なセーフティネットから排除されがちです。働いているにもかかわらず、十分な社会的保護を受けられないことが、ワーキングプアの問題を深刻化させています。

ワーキングプアの割合の高さの理由
非正規雇用の増加 非正規雇用の割合が高く、労働時間が長いが収入が低い職種(例えば飲食、販売、警備、清掃など)が多く、これらの労働者がワーキングプアに陥りやすいです。
シングルマザーの困難 シングルマザーは子育ての負担が大きく、求職活動でも採用に不利になる可能性があり、収入が低くても子育てのために融通がきかないため、ワーキングプアになりやすいです。
ワーキングプアの対策
経済的援助 経済的な援助を行うことで、自立できるようになるための足がかりを提供します。最低賃金や生活保護制度が重要です。
就労支援 働く意思がある人の就労を促進し、能力を発揮できて収入も得られるようなサポートを行うことが大切です。
求職者支援制度 厚生労働省が行っている求職者支援制度で、月10万円の給付金を受けながらスキルを身につけることができます。

ワーキングプアの要因と背景

ワーキングプアの増加には、様々な要因が複雑に絡み合っています。グローバル化の進展や産業構造の変化を背景に、雇用の不安定化や低賃金労働の増加が進んでいます。特に、製造業の海外移転や サービス産業の拡大に伴い、非正規雇用が大幅に増加しました。
また、長期的な経済の低迷や企業の人件費抑制策なども、ワーキングプアを生み出す要因となっています。デフレ経済下での賃金の伸び悩みや、企業のコスト削減策としての非正規雇用の活用などが、労働者の所得水準を押し下げています。
さらに、社会保障制度の不備や、職業訓練・教育訓練の機会の不足なども、ワーキングプアの問題を深刻化させる要因と言えます。不十分な社会保障は、働く貧困層の生活を不安定なものにし、貧困からの脱却を困難にします。また、スキルアップの機会の乏しさは、低賃金労働からの転換を阻む障壁となっています。
加えて、ジェンダー問題もワーキングプアの問題と密接に関連しています。女性は非正規雇用に就く割合が高く、賃金水準も男性に比べて低い傾向にあります。特に、シングルマザーの貧困率の高さは深刻な問題です。性別による雇用機会や処遇の格差が、女性のワーキングプア化を助長しています。

シングルマザーの貧困率が高い主な理由
貯蓄ができない 母子世帯の約4割が貯蓄がない状態で、平均貯蓄額も父子世帯の半分以下と経済的に厳しい状況にある。
正規雇用に就きづらい  出産を機に退職し専業主婦やパートタイマーになっていた女性が、シングルマザーとなって正規雇用を得るのが難しい。企業側も子育ての事情から正規雇用を敬遠する傾向がある。
周りから協力を仰ぎにくい  シングルマザーに対する偏見的な意見によってストレスを感じ、誰かに助けを求めづらい孤立感がある。
子どもの教育費に十分な投資ができない  経済的余裕がないため、子どもの習い事や塾代などの教育費を十分に確保できず、子どもの学力低下につながる。
1990年代以降、円高や貿易自由化の進展に伴い、多くの製造業が生産拠点を海外に移転しました。これにより国内の製造業雇用が減少し、失業率が上昇しました。一方で、サービス産業の比重が高まる経済のサービス化が進展し、非正規雇用が増加しました。非正規雇用者の多くはワーキングプアに該当し、所得格差の拡大につながっています。
規制緩和と非正規雇用の拡大
1990年代以降、労働者派遣法の改正など雇用に関する規制が緩和されました。これにより、企業は人件費削減のために非正規雇用を拡大させる傾向にあります。非正規雇用の増加は、賃金の低下を通じて労働分配率の低下にも影響しています。
産業構造の高度化と人材ミスマッチ
産業構造の高度化に伴い、AI・IoT等の先端技術に対応できる人材の不足が課題となっています。一方で、従来の硬直的な雇用制度では、急激な産業構造の変化に対応しきれず、失業率の上昇や非正規雇用の増加につながっています。
対策の方向性
ワーキングプアの問題に対しては、以下のような対策が求められます。
大企業と中小企業の適正な取引関係の確立
中小企業の生産性向上と経営支援
非正規雇用者の処遇改善と正社員化の推進
先端技術人材の育成と雇用制度の柔軟化 非正規雇用ではなく正規雇用を中心にする
解雇規制の維持
強制的な自主退職や早期退職は人権侵害、リストラやレイオフは人権侵害
 

ワーキングプアが直面する生活上の困難

ワーキングプアは、経済的困窮だけでなく、様々な生活上の困難に直面しています。低所得ゆえに、住居の確保や食料の確保など、基本的なニーズの充足が難しくなります。劣悪な住環境や食生活は、健康面のリスクにもつながります。
また、ワーキングプアは、医療サービスを受ける機会が限られがちです。低所得ゆえに医療費の負担が重く、必要な治療を受けられない状況が生じています。特に、非正規雇用者は社会保険に加入していないケースが多く、医療アクセスの面で不利な立場に置かれています。
さらに、ワーキングプアは、子育てや教育の面でも困難を抱えています。教育費の負担が重く、子どもの教育の機会が損なわれがちです。また、長時間労働や不規則な勤務により、子育ての時間が十分に取れない状況も生じています。貧困の世代間連鎖を断ち切る上で、子育て世帯への支援は欠かせません。
加えて、ワーキングプアは社会的な孤立のリスクにも直面しています。経済的困窮は、人間関係の形成や社会参加の機会を奪います。社会的なつながりの喪失は、メンタルヘルスの問題にもつながりかねません。社会的包摂の観点からも、ワーキングプアへの支援が求められます。

非正規雇用者は、社会保険の加入要件が緩和される以前は、加入が困難であったため、医療アクセスが制限されていた。特に、新型コロナウイルスの影響で非正規雇用者の減少が顕著であり、景気の不安定さが浮き彫りになっていた。
非正規雇用者が社会保険に加入しない場合、病気になった時や老後の保障が薄くなるため、医療アクセスが制限されることがあります。社会保険に加入することで、病気になった時や老後の保障が手厚くなり、リスクへの備えが厚くなりますが、加入することで保険料を支払う義務が生じるため、手取りの給料が減るデメリットもあります。
一方、社会保険に加入することで、従業員にとっては待遇改善となり、モチベーション向上が期待できます。傷病手当金、出産手当金などの保障も手厚くなり、リスクへの備えが厚くなり、長期的な就労を見込めることが大きな効果です。
企業としては、従業員の事情に応じた対応が求められ、加入を希望しない従業員に対しては短時間勤務など社会保険に加入しない働き方を用意することが一つの対応策となります。また、加入したい従業員に対しては、加入の詳細を周知し、情報共有を進めることが重要です。

ワーキングプア支援策の必要性と課題

ワーキングプアの問題は、個人の努力だけでは解決が難しい構造的な問題です。貧困からの脱却に向けては、社会全体での支援策の強化が不可欠です。ワーキングプアへの支援は、個人の尊厳を守るとともに、社会の持続可能性を高める上でも欠かせない取り組みと言えます。
ワーキングプア支援策としては、まず、雇用の質の向上が重要です。同一労働同一賃金の実現や、最低賃金の引き上げ、非正規雇用の処遇改善などを通じて、働きに見合った公正な報酬を確保することが求められます。また、職業訓練の機会の拡充により、スキルアップを通じた貧困脱却の道筋を開くことも重要です。
社会保障の充実も欠かせません。社会保険の適用拡大や、医療・住宅・子育てなどの分野での公的支援の強化により、ワーキングプアの生活を下支えすることが求められます。また、就労支援と福祉サービスの連携を強化し、包括的な支援体制を構築することも重要です。
しかし、ワーキングプア支援策には課題も多くあります。支援が必要な人々に支援が行き届いていない現状があります。行政の縦割りを超えた連携や、きめ細やかなアウトリーチの仕組みづくりが求められます。また、ワーキングプアの実態についてのデータ不足も大きな課題です。エビデンスに基づく政策立案のためにも、実態把握と分析が重要です。

ワーキングプアの問題点と対策
ワーキングプアは、就労していても充分な収入を得られず、貧困状態にある労働者を指し
ワーキングプアによって、結婚や家庭を持つことが困難になるため、少子高齢化が加速する可能性があります。
抜け出すのが困難 ワーキングプア状態では経済的に常に余裕がありません。子どもの教育にもお金をかけられず、子どもが充分な教育を受けられなくなる恐れがあります。
心身崩壊の危険性 ワーキングプアは、長時間の労働やストレスが高く、心身の健康に悪影響を与える可能性があります。
ワーキングプアに対する企業の対策
企業は、ワーキングプアを解消するために以下のような対策を講じることが推奨されます。
業績を上げて給与を増やす 会社の業績アップによって給与を上げることができ、従業員のモチベーションや企業への貢献意欲も高まります。
正社員での採用を増やす 正社員としての採用を増やすことで、労働者が安定した収入を得ることができます。
ワークシェアリングを導入する ワークシェアリングは、業務を複数人で分かち合うことで労働時間を短縮し、従業員の雇用機会を確保・創出できます。
ワーキングプアに対する国の政策
日本政府は、ワーキングプアに対する政策として以下のようなものを実施しています。
子育て世代への経済や教育の支援 幼児教育の無償化、義務教育の就学援助、私立高校等の授業料減免、高等学校等就学支援金、高校生等奨学給付金など、子育て世代に対する支援を提供しています。
ハローワークによる就労支援 ハローワークは、就労支援として、就労のための資金やスキルアップのための資金を提供しています。
最低賃金の引き上げ 最低賃金の引き上げにより、労働者の収入が向上し、ワーキングプアのリスクが低下します。
ワーキングプアに対する企業の役割
企業は、ワーキングプアを解消するために、以下のような役割を果たすことが重要です。
個人の尊厳を守る ワーキングプアに対する支援は、個人の尊厳を守りながらも社会の持続可能性を高めるために不可欠です。
社会の持続可能性を高める ワーキングプアを解消することで、社会の持続可能性が高まり、少子高齢化や経済の不均衡が緩和されます。

生活困窮者自立支援の強化と包括的アプローチ

ワーキングプアの支援には、生活困窮者自立支援の強化と、包括的なアプローチが不可欠です。2015年に施行された生活困窮者自立支援法は、ワーキングプアを含む生活困窮者への包括的な支援を可能にする画期的な法律です。この法律に基づく支援の拡充が求められています。
自立相談支援事業や住居確保給付金など、生活困窮者自立支援制度の個別の事業の強化に加え、関連する諸制度との連携強化も重要です。生活保護、ハローワーク、福祉事務所など、様々な機関が緊密に連携し、切れ目のない支援を提供する必要があります。
また、ワーキングプアの抱える複合的な課題に対応するためには、就労支援だけでなく、健康支援、家計支援、子育て支援など、多様な支援メニューを用意することが重要です。包括的かつ個別的なアセスメントに基づき、寄り添った支援プランを立てることが求められます。
さらに、ワーキングプア支援には、当事者の声を反映した政策立案と、社会全体の意識改革も欠かせません。当事者の抱える困難や必要な支援について、社会の理解を深めることが重要です。貧困の問題を個人の責任とするのではなく、社会構造的な問題として認識を共有することが求められます。
ワーキングプアの問題は、簡単には解決できない複雑な課題ですが、あきらめることなく、粘り強く取り組んでいくことが重要です。尊厳が守られ、誰もが希望を持って働ける社会の実現に向けて、社会全体で知恵を出し合い、行動していくことが求められています。
本章では、ワーキングプアの問題について、その実態と要因、直面する困難、支援策の必要性と課題について論じました。ワーキングプアの問題は、雇用の不安定化や貧困の固定化など、現代社会が抱える構造的な問題の縮図とも言えます。

アンダークラスの人々は低賃金で不安定な仕事を強制されており、自己責任では説明できません。彼らには選択の余地がありません。
貧困に陥った人々の中にも、「自分は努力していない」と考えざるを得なくなる人がいます。これは現実に折り合いをつけるための防衛反応であって、自己責任意識ではありません。
実際、自己責任論は高学歴・高収入の人々に特に強く見られる傾向があります。一方で、アンダークラスの人々の間では自己責任論の浸透度が低いことが調査で明らかになっています。
格差の拡大は社会全体に悪影響を及ぼします。犯罪の増加やストレスの高まりなど、健康的な社会を阻害する要因となっています。
政府の格差対策は遅すぎて不十分です。就職氷河期世代への支援策は実効性に乏しく、自己責任の枠組みから抜け出せていません。

第11章 地域間格差の問題と対策


地域間の経済格差の拡大は、日本社会が直面する重大な課題の一つです。都市部と地方部の格差は、雇用、所得、教育、医療など、様々な面で顕在化しています。地域間格差は、個人の生活の質や機会の平等性を損なうだけでなく、社会の持続可能性や統合にも深刻な影響を及ぼします。本章では、地域間格差の実態とその要因を分析し、格差是正に向けた取り組みについて議論します。

地域間格差の現状と要因

日本では、東京を中心とする大都市圏と、その他の地方圏との間で、経済的な格差が拡大しています。例えば、1人当たりの県民所得を見ると、東京都が全国平均の約1.5倍であるのに対し、最も低い県では全国平均の約7割にとどまっています。所得格差は、雇用機会の偏在や産業構造の違いなどを反映したものと言えます。
地域間格差の背景には、グローバル化や産業構造の変化、人口動態の変化などの構造的要因があります。グローバル競争の激化に伴い、製造業の海外移転が進み、地方の雇用が大きく影響を受けました。また、サービス経済化の進展により、都市部に経済活動が集中する傾向が強まっています。
加えて、地方から都市部への若年人口の流出は、地方経済の縮小と高齢化を加速させています。若者の流出は、地方の労働力不足と イノベーション力の低下をもたらし、地域経済の停滞を招いています。人口減少と高齢化は、地方の社会インフラの維持を困難にし、生活の質の低下にもつながっています。
また、財政力の格差も地域間格差を助長する要因となっています。都市部に税収が集中する一方、地方自治体の財政基盤は脆弱化しています。財政力の低下は、公共サービスの質の低下や、地域の成長戦略の制約となっています。

労働力不足
地方では、賃金や安定性、やりがい等の点で良質な雇用が不足しているため、若者が相対的に良質な雇用を求めて東京圏に流出するという事態が生じている。
これにより、地方の企業が人手不足を感じており、その傾向は近時急速に強まっている。
イノベーション力の低下
地方の大学と企業の連携が進んでいるが、地方創生の中心となる「知の拠点」としての役割が期待されており、大学改革が求められている。
これにより、地方でのイノベーションの創出や研究成果の世界的な影響が期待されているが、地方のイノベーション力が低下していることが問題視されています。
地域経済の停滞
人口減少が地域経済の縮小を呼び、地域経済の縮小が人口減少を加速させる負のスパイラルが形成されることが危惧されています。
これにより、地域経済の供給面と需要面の双方にマイナスの影響を与え、地域経済が停滞することがあります。

地域間格差が経済・社会に及ぼす影響

地域間格差の拡大は、国民経済や社会の安定性に重大な影響を及ぼします。地方経済の縮小は、国内需要の低迷を通じて、日本経済全体の成長力を削ぐ要因となります。また、地方の雇用機会の不足は、全国的な労働力不足を悪化させる恐れもあります。
社会的な影響も看過できません。地域間の不平等の拡大は、社会の分断や対立を生みます。機会の不平等は、個人の努力では克服できない構造的な問題であり、社会の公正性を損なう要因となります。また、地方の衰退は、伝統文化の継承や、コミュニティの維持を困難にし、社会の多様性を脅かします。
加えて、地域間格差は、政治的な対立を生む要因ともなっています。格差に対する不満は、ポピュリズムの台頭や、極端な政治的主張の広がりにつながる恐れがあります。地域間の利害の対立は、全国的な政策決定を困難にし、社会の分断を深刻化させかねません。
地域間格差の問題は、ワーキングプアの問題とも密接に関連しています。地方の雇用機会の不足や低賃金は、地方のワーキングプア問題を深刻化させています。地域の活性化と雇用の質の向上は、ワーキングプアの解消にも不可欠の課題と言えます。

個人的要因の多様性 個人的要因は多様であり、結果を規定する要因として複雑な相互作用が存在します。従来の研究では、業績や学歴を指標としていたが、実際には多くの個人的要因が結果に影響を与えるため、単に努力や選択で克服することは困難です。
社会的資源の不平等分配 産業社会では、資源の不平等分配が進行しており、閉鎖的社会が形成されます。このような社会的背景では、個人の努力が十分に反映されることができません。例えば、子どもの地位獲得の機会が不平等に賦与される閉鎖的社会では、個人の努力が克服することが困難です。
選択の自由度 個人選択説は、選択の自由度が限られる環境では、平等な機会のもとで選択が歪められ、機会の平等が実質的に障害される可能性を指摘しています。このような環境では、個人の努力が克服することが困難です。

地方の雇用問題と人口流出

地方の雇用問題は、地域間格差の中核的な課題の一つです。地方では、雇用機会の絶対的な不足に加え、雇用の質の低さも問題となっています。非正規雇用の割合が高く、賃金水準も都市部に比べて低い傾向にあります。
特に、若年層の雇用問題は深刻です。地元に魅力的な就職先がないことから、多くの若者が都市部に流出しています。UIターンの促進や、地元企業の魅力向上など、若者の地元定着を促す取り組みが求められています。
また、地方の産業構造の脆弱さも雇用問題に影響を及ぼしています。地場産業の衰退や、新たな成長産業の不在により、安定的な雇用の創出が難しい状況にあります。地域経済の多角化や、イノベーション促進による新産業の育成が重要な課題となっています。
人口流出は、地方の雇用問題に拍車をかけています。生産年齢人口の減少は、労働力不足を深刻化させ、地域経済の縮小を加速させます。また、人口減少は、地域の社会インフラの維持を困難にし、生活の利便性の低下を招いています。
地方の雇用問題への対応には、産業政策と雇用政策の連携した取り組みが不可欠です。地域の強みを生かした産業振興と、雇用の量と質の確保を車の両輪で進めることが求められます。また、人口流出への対応には、雇用対策だけでなく、教育、医療、子育てなど、住民の生活全般に関わる総合的な取り組みが必要です。

人口流出は、地方の雇用問題に拍車をかけています。生産年齢人口の減少は、労働力不足を深刻化させ、地域経済の縮小を加速させます。
この問題は、地方の雇用状況に深刻な影響を与えます。生産年齢人口の減少は、労働力不足を引き起こし、地域経済の縮小を促します。特に、地方の農業や地域産業の担い手の確保が課題となり、人材の不足が地域経済や日常生活に必要なサービスの制約要因となるおそれがあります。
また、地方の公共交通網の形成が課題となり、自動車の移動手段に占める割合が高い地域では、高齢者の増加に対応することが求められます。
この問題に対処するためには、地域コミュニティの新たな形成が必要となり、住み慣れた地域で暮らし続けるための医療・介護サービスの提供体制の構築が重要です。

地域活性化策と雇用創出の取り組み

地域間格差の是正には、地域経済の活性化と雇用創出に向けた戦略的な取り組みが不可欠です。国と地方自治体、民間セクターが連携し、地域の特性を生かした成長戦略を推進することが求められています。
地域活性化策としては、まず、地域の強みを生かした産業振興が重要です。地場産業の高付加価値化や、農林水産業の6次産業化、観光産業の振興など、地域資源を活用した取り組みが各地で進められています。また、地域外の企業誘致や、スタートアップ支援による新産業の創出も重要な方策です。
雇用創出に向けては、雇用のミスマッチの解消や、職業訓練の充実、UIターンの促進など、きめ細やかな施策が求められます。地域の企業と求職者のマッチング支援や、地域に根ざした職業訓練の提供により、雇用の量と質の確保を図ることが重要です。
また、社会的経済(ソーシャルエコノミー)の振興も、地域の雇用創出に有効な手段と言えます。社会的企業やコミュニティビジネスの育成を通じて、地域の課題解決と雇用創出を同時に進めることができます。行政の支援と民間の創意工夫を組み合わせた、新たな地域経済モデルの構築が期待されます。
地域活性化と雇用創出の取り組みには、地域の多様な主体の参画が欠かせません。行政、企業、大学、NPO、住民などが連携し、地域の将来像を共有しながら取り組みを進めることが重要です。地域の主体性と創意工夫を生かした、ボトムアップの取り組みが求められています。

生産年齢人口の減少は、労働力不足を引き起こし、地域経済の縮小を促します。特に、地方の農業や地域産業の担い手の確保が課題となり、人材の不足が地域経済や日常生活に必要なサービスの制約要因となるおそれがあります。
また、地方の公共交通網の形成が課題となり、自動車の移動手段に占める割合が高い地域では、高齢者の増加に対応することが求められます。
この問題に対処するためには、地域コミュニティの新たな形成が必要となり、住み慣れた地域で暮らし続けるための医療・介護サービスの提供体制の構築が重要です。

地方創生と持続可能な地域社会の構築

地域間格差の問題は、単に経済的な問題にとどまりません。持続可能で魅力ある地域社会の構築という、より広い視点からの取り組みが求められています。地方創生の理念の下、地域の多様性を尊重しつつ、持続可能な地域づくりを進めることが重要です。
地方創生に向けては、まず、地域の価値の再発見と発信が重要です。地域の自然、歴史、文化、産業など、多様な地域資源の価値を再評価し、地域の魅力を内外に発信することが求められます。地域のアイデンティティの再構築は、住民の地域への愛着と誇りを高め、地域づくりの原動力となります。
また、地域の課題解決に向けた住民主体の取り組みを支援することも重要です。地域の実情に精通した住民の知恵と経験を生かし、地域の課題を地域で解決する仕組みづくりが求められます。行政は、住民の自発的な活動を支援し、協働する体制を整備することが重要です。
持続可能な地域社会の構築には、経済、社会、環境の三側面のバランスを取ることが欠かせません。経済的な活力を維持しつつ、社会的な包摂と環境の保全を図ることが求められます。再生可能エネルギーの導入や、環境ビジネスの振興など、環境と経済の好循環を生み出す取り組みも重要な柱となります。
地方創生は、長期的な取り組みです。しかし、地域の多様な主体が知恵を出し合い、粘り強く取り組みを進めることで、必ず道は開けるはずです。国と地方が連携し、地域の主体性を尊重しながら、持続可能な地域社会の実現に向けて歩みを進めることが何より重要です。

地域間格差は、経済的要因だけでなく、社会的、文化的、環境的な要因によっても引き起こされます。例えば、都市部と地方では教育や医療、交通インフラの整備状況が異なり、これが地域住民の生活の質に影響を与えます。また、地域特有の文化や歴史が十分に評価されないことも格差を助長する要因です。持続可能な地域づくりには、これらの多様な側面を考慮し、それぞれの地域の特性を活かすことが求められます。
地域資源の再発見と価値発信
地域には独自の資源や文化がありますが、それらが十分に認識されていない場合があります。地域資源を再発見し、その価値を発信することは、地域活性化につながります。例えば、地元産品や伝統工芸品を観光資源として活用することで、地域経済を活性化させることが可能です。このように、地域の魅力を外部に伝えることで、新たな訪問者や投資を呼び込むことができます。
持続可能な社会への貢献
持続可能な地域づくりは、環境保全や社会的包摂といった観点からも重要です。例えば、再生可能エネルギーの導入や地域循環型経済の実現は、環境負荷を軽減しつつ地域経済を活性化させる手段となります。また、多文化共生やダイバーシティの推進は、地域社会の強靭性を高める要素でもあります。

 

多様性の尊重 地域の多様性を尊重し、個別の都市・地域の独自性を重視して地域の課題解決力の強化を促しています。
持続可能な地域づくり 地方創生は、持続可能な開発目標(SDGs)を達成するための取り組みであり、環境・社会・経済の三方面における統合的取組を推進しています。
地域資源の活用 地域資源を活用して、環境価値、社会的価値、経済的価値を創造しながら、自律的に発展していく多様な都市・地域モデルを創出しています。

第12章 労働市場の変化と新たな雇用形態

技術革新やグローバル化の急速な進展に伴い、労働市場は大きな変革期を迎えています。AI(人工知能)やロボット工学の発展、シェアリングエコノミーの拡大など、新たな技術やビジネスモデルが雇用の在り方そのものを変えつつあります。本章では、労働市場の構造変化の実相を分析し、新たな雇用形態の可能性と課題について議論します。

労働市場の構造変化と雇用の多様化

労働市場は、技術革新とグローバル化を背景に、大きな構造変化に直面しています。産業構造のサービス化や、デジタル化の進展により、従来型の雇用形態だけでなく、多様な働き方が広がりつつあります。
特に、AI やロボット工学の発展は、雇用の代替と創出の両面で大きな影響を及ぼしています。定型的な作業の自動化が進む一方で、新たな技術を活用した職種も生まれています。また、プラットフォームビジネスの拡大は、フリーランスや個人事業主といった、新たな働き方を生み出しています。
労働市場の変化は、雇用の流動化をもたらしています。終身雇用や年功序列といった日本型雇用システムが揺らぐ中、転職やキャリアチェンジが一般化しつつあります。また、副業・兼業の解禁など、雇用の多様化を後押しする制度改革も進められています。
雇用の多様化は、ワーク・ライフ・バランスの実現や、個人の能力発揮の機会の拡大につながる可能性を秘めています。多様な働き方の選択肢を広げることは、労働者のウェルビーイングの向上にも寄与すると期待されます。
一方で、雇用の多様化は、雇用の不安定化や格差の拡大につながる恐れもあります。フリーランスや非正規雇用の拡大は、社会保障の適用外となる労働者を増やし、セーフティネットの脆弱化を招く可能性があります。労働市場の二極化が進めば、社会の分断につながりかねません。
労働市場の構造変化に対応し、雇用の多様化のメリットを最大化しつつ、そのリスクを最小化することが求められています。雇用の安定と柔軟性のバランスを取りつつ、誰もが安心して働ける環境を整備することが重要な課題となっています。

終身雇用の問題点
デジタル化に追いつかない IT化やDXを担う人材が求められており、年長者がスキルや経験を持つとは限らないため、人件費が高騰する問題が生じています。
高齢化と生産性の低下 高齢化が進み、生産性が上がりにくい傾向があり、解雇される心配がなく、勤め続ければ給与が増える状況では、成果を出さなければならないという意識が薄くなるでしょう。
年功序列の問題点
キャリアパスが画一的 年功序列制度のもとでは、入社し、しばらく現場で働いた後、やがては管理職になるルートが一般的です。しかし、労働者のすべてが管理職になりたいわけではありません。
スキルや能力よりもワークスタイルの多様化に合わない ワークスタイルの多様化にあまり適さないため、長時間労働が問題視されています。また、フルタイム勤務ができなければ正社員として働くことが難しく、キャリアを離れるか、フリーランスや複数の仕事を掛け持ちする人が増えている。
キャリアチェンジの増加
グローバル企業でのキャリアアップ グローバル企業で働くことは、グローバルに働きたい人や語学力を生かして働きたい人だけでなく、自分の可能性やワークライフバランスを求める多くの方にとって、多くのメリットがあります。
転職市場の活況化 転職市場は、今後さらに活況を呈すると考えられます。企業に依存せず、自分に合ったワークスタイルや、活躍できる分野を見つけることが重要です。
メンバーシップ型雇用の特徴
新卒一括採用 メンバーシップ型雇用では、新卒一括採用ののち、適性を見て職種を割り当てる雇用形式で、総合職として採用され、その企業内で育成され、ジョブローテーションで営業や人事、企画など多様な職種を経験します。
終身雇用の歴史と変化
大正末期から昭和初期にかけての原型 終身雇用制度の原型ができたのは、大正末期から昭和初期にかけてといわれています。
第二次世界大戦後本格的に普及 第二次世界大戦後、本格的に日本全国に普及しました。
企業の奨励制度や国の労働政策
企業の奨励制度 企業が優秀な人材を囲い込むために、終身雇用や年功序列が奨励されています。
国の労働政策 終身雇用や年功序列は、労働政策の一環として、労働者の安定した収入やキャリアアップを促すために導入されています。

テレワークとフレックスワークの普及

情報通信技術(ICT)の発展は、テレワークやフレックスワークの普及を加速させています。テレワークとは、ICTを活用して、時間や場所の制約を受けずに働く形態を指します。在宅勤務やモバイルワークなどがその代表例です。
テレワークは、通勤時間の削減や、育児・介護との両立を可能にするなど、労働者のワーク・ライフ・バランスの実現に寄与します。また、オフィスコストの削減や、優秀な人材の確保などの面で、企業にもメリットをもたらします。
加えて、テレワークは、地方創生の観点からも注目されています。地方在住者が、都市部の企業に勤務することを可能にするテレワークは、地方の雇用創出と、都市部の人材不足の解消に貢献すると期待されます。
フレックスワークは、労働者が働く時間や場所を柔軟に選択できる働き方を指します。フレックスタイム制や裁量労働制などがその代表例です。フレックスワークは、労働者の自律性を高め、生産性の向上につながると期待されています。
しかし、テレワークやフレックスワークには課題もあります。コミュニケーションの難しさや、労務管理の複雑化などが指摘されています。また、常時オンラインを求められるなど、働き方の問題が新たに生じる恐れもあります。
テレワークやフレックスワークの普及に向けては、適切な労務管理のガイドラインの策定や、ICTインフラの整備、管理職のマネジメント能力の向上などが求められます。労働者の健康とウェルビーイングを守りつつ、柔軟な働き方の利点を最大限に引き出すことが重要です。

フレックスワーク(フレックスワーク)は、労働者が働く時間や場所を柔軟に選択できる働き方を指します。フレックスタイム制(フレックスタイム)や裁量労働制(裁量労働)などがその代表的な例です。
フレックスタイム制は、労働者が一定の期間内で決められた総労働時間の範囲内で、始業・終業時刻や働く時間を自由に決めることができる制度です。コアタイム(必ず就業しなければならない時間帯)を設定することが一般的で、労働者が生活と業務の調整を図るために利用されます。
一方、裁量労働制は、業務の遂行方法を労働者が裁量にゆだねる必要がある業務に適用されます。実際の労働時間ではなく、みなし労働時間で管理を行うため、フレックスタイム制と異なり、労働時間の自由度が低いです。
フレックスワークは、労働者が自分のスケジュールに応じて働く時間や場所を選択できるため、ワークライフバランスを重視した生活が可能になり、モチベーションが向上し仕事の質が上がるメリットがあります。ただし、自己管理が不得手な労働者には、モチベーションや集中力の低下につながるリスクもあります。

ギグエコノミーの台頭と雇用の流動化

ギグエコノミーの台頭は、雇用の流動化に拍車をかけています。ギグエコノミーとは、個人が単発の仕事(ギグ)を請け負う経済形態を指します。フリーランスや個人事業主などが、クラウドソーシングやシェアリングエコノミーのプラットフォームを通じて仕事を受注する形が典型例です。
ギグワーカーは、特定の企業に属さず、自律的に仕事を選択します。この働き方は、自由度が高く、ワーク・ライフ・バランスの実現に適していると言えます。また、企業側にとっても、必要な時に必要な人材を確保できるメリットがあります。
一方で、ギグエコノミーには、雇用の不安定性や、社会保障の適用外となるリスクなど、様々な課題があります。仕事の受注が不安定な場合、生活の基盤が脅かされる恐れがあります。また、労災保険や雇用保険の適用外となることで、セーフティネットから排除される可能性もあります。
加えて、ギグワーカーの権利保護の問題も指摘されています。労働法の適用が難しいギグワーカーは、低賃金や過重労働のリスクにさらされがちです。公正な報酬と適切な労働条件の確保が大きな課題となっています。
ギグエコノミーの拡大に対応し、ギグワーカーの保護と支援を図ることが急務です。社会保障制度の見直しや、ギグワーカーの団結権の保障、公正な契約条件の確保などに向けた制度整備が求められます。

ギグワーカーは通常、正規の雇用契約を持たないため、社会保障や労災保険などの保護を受けることが難しい。雇用契約が曖昧で労働者の保護が不十分であり、最低賃金や有給休暇などの労働者の権利が適用されない場合がある。
また、ギグワーカーは1人で全ての仕事をこなす必要があるため、社会とのつながりが希薄になり、孤独感を感じることがある。さらに、有能な人に仕事が集中し、能力の低い人は仕事の依頼が少なく単価も低くなるなど、新たな格差の発生も懸念されている。
そのため、ギグエコノミーの課題を解決するためには、社会保障制度や労働法の改革が必要とされている。ギグワーカーの権利を保護し、安定した収入と生活を確保するための取り組みが求められている。

新たな雇用形態がもたらす機会と課題

新たな雇用形態は、労働者と企業の双方に新たな機会をもたらします。多様な働き方の選択肢は、個人の能力を最大限に発揮する機会を拡大します。企業にとっても、必要な人材を柔軟に確保できるメリットがあります。
特に、テレワークは、地理的制約を超えた雇用の可能性を開きます。地方の人材が、都市部の企業で働く機会が広がることで、地方の雇用問題の解決にも貢献すると期待されます。
また、フリーランスや副業の拡大は、イノベーションの促進にもつながります。多様な経験を持つ人材が、組織の垣根を越えて協働することで、新たな発想やアイデアが生まれる可能性があります。
一方で、新たな雇用形態には、様々な課題も伴います。雇用の不安定化や格差の拡大、社会保障の適用外となるリスクなどが指摘されています。また、長時間労働やメンタルヘルスの問題など、新たな労働問題も生じています。
これらの課題に対応するためには、雇用制度の見直しと、セーフティネットの再構築が不可欠です。多様な働き方に対応した労働法制の整備や、社会保険の適用拡大、職業訓練の充実などが求められます。
同時に、企業の雇用管理の在り方も問われています。多様な働き方を前提とした人事制度の構築や、公正な評価制度の確立、労働者のキャリア支援などが重要な課題となっています。

地方での新たな働き方 テレワークの普及により、地方で都市部と同じ仕事ができる可能性が広がり、地方での新たな生活スタイルが可能となります。
地方の雇用問題の解決 地方の人材が都市部の企業で働く機会が広がることで、地方の雇用問題が解決されることが期待されます。特に、地方での就労の障壁として「新しい仕事を探すこと」や「年収が下がる」といった問題が解消される可能性があります。
地域経済の活性化 地方でのテレワークが増えることで、地域経済の活性化が期待されます。特に、地方の中小企業が大きな役割を担うため、中小企業のテレワークの導入支援が重要視されています。
若い世代の移住促進 テレワークを活用した地方居住は、若い世代の移住促進にも効果があります。若い世代は、移住に対する関心が高い傾向にあるため、テレワークを活用した地方居住が人気になることが期待されます。
「転職なき移住」の実現 政府は、テレワークを活用して「転職なき移住」を実現することを目指しています。これにより、東京圏に立地する企業などに勤めたまま、地方に移住して地方で仕事をすることが可能となります。

雇用制度改革と労働者保護の在り方

新たな雇用形態の拡大に対応するためには、雇用制度の抜本的な改革が不可欠です。現行の労働法制は、伝統的な雇用関係を前提としたものであり、多様化する働き方への対応が十分とは言えません。
雇用制度改革に際しては、まず、労働者概念の再定義が求められます。従来の「労働者」の範囲を超えて、就業形態の多様化に対応した新たな概念規定が必要です。その上で、労働基準法や労働契約法など、関連法規の見直しを進める必要があります。
具体的には、シェアリングエコノミーの従事者など、現行法の適用が難しい就業形態についての法的位置づけを明確にすることが急務です。また、フリーランスなど、独立した就業者の権利保護や、公正な契約条件の確保に向けた制度設計も重要な課題です。
加えて、社会保障制度の見直しも欠かせません。雇用保険や健康保険、年金など、雇用関係を前提とした現行の制度設計を、就業形態の多様化に対応したものに改める必要があります。すべての働き手が、就業形態に関わらず、必要な保護を受けられる制度の構築が求められます。
雇用制度改革に際しては、労働者保護と雇用の柔軟性のバランスを取ることが重要です。働き手の権利を守りつつ、新たな雇用形態の利点を活かせる制度設計を目指すべきです。そのためには、政労使の対話と協調が不可欠です。

シェアリングエコノミーの法的位置づけの問題点
自営業者としての扱い シェアリングエコノミーの従事者は、自営業者として扱われ、最低賃金や休暇などが適用されないことが多い。これにより、労働者としての権利が損なわれている。
労働者としての権利の保障 シェアリングエコノミーの従事者は、実際には従属的な労働者でありながら、自営業者としての扱いを受けることが多い。これにより、労働者としての権利が保障されていない場合がある。
公正な契約条件の確保 シェアリングエコノミーのプラットフォームは、契約条件が公平でない場合がある。例えば、ドライバーがウーバー社のアプリケーションを通じて予約制ハイヤーサービスに従事しているが、ウーバー社はドライバーとの間には雇用関係や委託関係もないとしている。
制度設計の重要性
権利保護 フリーランスや独立した就業者の権利保護が重要です。これにより、労働者としての権利が保障され、公正な契約条件が確保されることが期待できます。
制度の明確化 シェアリングエコノミーの法的位置づけが明確になることで、従事者の権利が保護され、公正な契約条件が確保されることが期待できます。
労働法の改正 シェアリングエコノミーの普及に伴い、労働法の改正が必要です。これにより、労働者としての権利が保障され、公正な契約条件が確保されることが期待できます。

第13章 ダイバーシティ&インクルージョンと雇用

ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)は、現代の企業と社会にとって極めて重要な課題です。多様な人材が、その能力を最大限に発揮し、活躍できる組織や社会を作ることは、公正性の観点からも、イノベーションの観点からも不可欠と言えます。本章では、D&I の意義と現状、雇用の面での課題と取り組みについて論じます。

ダイバーシティ&インクルージョンの意義と現状

ダイバーシティ(多様性)とは、性別、年齢、国籍、人種、宗教、障がいの有無、性的指向など、様々な属性の違いを指します。インクルージョン(包摂)とは、こうした多様な人々が、それぞれの個性や能力を発揮しながら、組織や社会に参加し、活躍できる状態を指します。
D&I は、まず、公正性と機会の平等の観点から重要です。個人の属性によって、雇用の機会や処遇に差が生じることは、基本的人権の尊重や法の下の平等の理念に反します。すべての人が、その能力に応じて公正に扱われ、活躍の機会が与えられるべきです。
また、D&I は、イノベーションと組織のパフォーマンス向上の観点からも重要です。多様な背景を持つ人々が協働することで、新たな発想やアイデアが生まれ、創造性が高まります。また、多様な人材を活用することで、多様な市場ニーズへの対応力も高まります。
近年、日本でも D&I の重要性に対する認識が高まっています。女性活躍推進法や障害者雇用促進法の制定など、法制度の面でも D&I を後押しする動きが見られます。また、多くの企業が、D&I を経営戦略の中核に位置づけ、多様な人材の活用に取り組んでいます。
しかし、日本の D&I の現状は、まだ道半ばと言わざるを得ません。女性の管理職比率の低さ、障がい者雇用の課題、外国人材の活用の遅れなど、様々な面で課題が指摘されています。D&I の実現に向けては、更なる努力と工夫が求められています。

女性活躍推進法は、2016年4月から施行された法律で、女性の活躍を推進し、男女間の格差を解消することを目的としている。
法律の主な内容
301人以上の企業に対して、女性の活躍に関する状況把握、課題分析、数値目標設定、取組内容を盛り込んだ行動計画の策定・届出・公表が義務付けられている。
2022年4月からは、101人以上の企業にも行動計画の策定・公表が義務化された。
企業の取組状況に応じて、「えるぼし」「プラチナえるぼし」の認定制度が設けられている。
法制定の背景には、女性の就業率が高いにもかかわらず管理職比率が低いこと、今後の労働力不足を解消するには女性の活躍が重要であるといった課題があった。
企業には、行動計画の策定・公表、女性の活躍実績の向上、両立支援制度の整備などが求められている。

女性の雇用問題とジェンダー不平等

日本における D&I の大きな課題の一つが、女性の雇用をめぐる問題です。日本の女性の労働力率は、諸外国と比べて低い水準にとどまっています。特に、出産・育児期の女性の労働力率の低下が顕著であり、いわゆる「M字カーブ」を描いています。
また、管理職に占める女性の割合も低く、2020年の時点で12.9%にとどまっています。ガラスの天井と呼ばれる見えない障壁が、女性のキャリア進展を阻んでいます。加えて、男女の賃金格差も大きな問題です。女性の平均賃金は男性の約7割の水準に留まっています。
女性の雇用をめぐる問題の背景には、根強い性別役割分担意識や、長時間労働を前提とした働き方など、構造的な要因があります。家事・育児の負担が女性に偏る中で、仕事と家庭の両立が困難な状況が続いています。
また、男性中心の企業文化や、女性の能力を適正に評価しない人事制度なども、女性の活躍を阻む要因となっています。アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)が、採用や昇進の場面で女性に不利に働くという指摘もあります。
ジェンダー不平等の解消に向けては、働き方改革の推進や、育児・介護支援の充実など、仕事と家庭の両立を可能にする環境整備が不可欠です。同時に、企業文化の変革や、人事制度の見直しなど、組織の意識と仕組みの改革も求められます。
女性の活躍推進は、単に女性の権利の問題にとどまりません。多様な視点や価値観を企業経営に取り込むことで、イノベーションや新たな市場の開拓につながることが期待されます。女性の活躍は、日本経済の持続的成長のカギを握ると言っても過言ではありません。

管理職に占める女性の割合は長期的に上昇傾向にあるものの、国際的に見ると依然として低く、アジア諸国と比べても特に低い水準にある。
企業規模別にみると、大企業ほど管理職に占める女性の割合が低くなっている。
総合職の採用では、女性の採用割合は1割程度にとどまっており、応募者に対する採用状況も男性に比べて厳しくなっている。
一方で、一般職の採用では女性が9割近くを占めている。
将来的な育成に向けた教育訓練の受講率も、女性は男性に比べて低くなっている。

障がい者の雇用促進と就労支援

障がい者の雇用促進も、D&I の重要な課題の一つです。日本では、障害者雇用促進法に基づき、一定規模以上の企業に対して、障がい者の雇用が義務づけられています。2021年の民間企業の障がい者雇用率は2.20%で、法定雇用率(2.3%)を下回っている状況です。
障がい者の就労には、様々な障壁があります。物理的なバリアフリー環境の不足や、障がいに対する理解の乏しさ、就労支援の不足などが課題として指摘されています。特に、精神障がい者や発達障がい者の就労支援は、まだ十分とは言えません。
また、雇用の質の問題も看過できません。障がい者の非正規雇用率は高く、賃金も非障がい者と比べて低い傾向にあります。障がいの特性に応じた仕事の切り出しや、キャリア形成の支援など、雇用の質の向上に向けた取り組みが求められています。
障がい者の雇用促進に向けては、まず、企業の意識改革が重要です。障がい者雇用を社会的責任としてだけでなく、多様な人材の活用による企業価値の向上という積極的な意義を認識することが大切です。
また、職場の環境整備や、合理的配慮の提供など、障がい者が働きやすい環境を整えることも不可欠です。加えて、就労移行支援や職場定着支援など、就労に向けた支援体制の拡充も求められます。
障がい者の雇用促進は、障がい者の社会参加と経済的自立を実現するための重要な鍵です。障がいの有無に関わらず、能力が最大限に発揮される社会の実現に向けて、官民協働で取り組みを進めていく必要があります。

障がい者雇用は一般雇用に比べて収入が低くなる傾向にある。これは障がい者だからではなく、業務量や勤務時間の違いによるものが主な理由。
障がい者の約8割が非正規雇用であり、非正規雇用の賃金は正規雇用に比べて低い傾向にある。
最低賃金の減額特例制度が適用される場合、障がいにより著しく労働能力が低い場合などに最低賃金を減額できる。
障がい別の平均賃金をみると、身体障がい者が最も高く、知的・発達・精神障がい者の順に低くなる傾向にある。

外国人労働者の受け入れと社会統合

グローバル化の進展に伴い、外国人労働者の受け入れは、日本の産業と社会にとって重要な課題となっています。少子高齢化に伴う労働力不足への対応や、多様な価値観の取り込みによるイノベーションの促進など、外国人材への期待は高まっています。
日本政府は、2019年に新たな在留資格「特定技能」を創設し、一定の専門性を有する外国人材の受け入れ拡大を図っています。介護や建設、農業など、人手不足が深刻な分野での外国人材の活用が期待されています。
一方で、外国人材の受け入れには、様々な課題もあります。言語や文化の違いによるコミュニケーションの困難さ、外国人労働者の権利保護、社会保障制度へのアクセスの確保など、働く環境の整備が重要な課題となっています。
また、外国人材の定着と社会統合も大きな課題です。単に労働力として外国人材を受け入れるだけでなく、日本社会の一員として受け入れ、包摂していく視点が欠かせません。日本語教育の充実や、生活支援の強化、地域コミュニティでの交流促進など、総合的な取り組みが求められます。
加えて、外国人材の受け入れは、日本社会の多文化共生の在り方を問う契機でもあります。異なる文化的背景を持つ人々が、互いの多様性を尊重し合いながら、共に生きる社会を作っていく必要があります。そのためには、日本人の意識改革と、多文化理解の促進も欠かせません。
外国人材の受け入れは、日本の産業と社会の将来を左右する重要な課題です。外国人材の能力を十分に発揮できる環境を整備し、多様性を力に変えていくことが求められています。そのために、企業、政府、地域社会が連携し、包括的な取り組みを進めていく必要があります。

日本政府は、深刻化する人手不足に対応するため、2019年に新たな在留資格「特定技能」を創設しました。 この制度は、一定の専門性や技能を有する即戦力の外国人材を幅広く受け入れることを目的としています。 具体的には、対策を行っても人材確保が難しい産業分野で、一定の専門性や技能を持つ外国人材を受け入れていくことを目指しています。 受入れ企業には、外国人と適切な雇用契約を結ぶことや、外国人材の定着・活躍のための支援を行うことなどが求められています。 政府は、この新たな在留資格の創設により、一定の専門性と技能を持つ外国人材の受入れ拡大を図っています。

多様な人材の活躍推進と包摂的な労働環境の整備

D&I の実現には、性別、障がい、国籍などの属性に関わらず、多様な人材が活躍できる環境の整備が不可欠です。企業には、多様な人材の活用を経営戦略の中核に位置づけ、包摂的な組織文化の醸成に向けた取り組みが求められます。
具体的には、公正な採用・昇進の仕組みの構築や、多様な働き方の導入、社内のネットワーキングの促進などが重要な施策と言えます。また、管理職のダイバーシティ・マネジメント能力の向上や、社員の意識啓発なども欠かせません。
D&I の推進には、トップのリーダーシップが極めて重要です。経営トップ自らがD&Iの意義を明確に示し、実践することで、組織全体の取り組みを加速することができます。また、多様な属性を持つ人材を経営層に登用することも、強力なメッセージとなります。
同時に、社会全体の意識改革と、包摂的な環境の整備も求められます。学校教育におけるダイバーシティ教育の充実や、メディアにおける多様性の表現など、社会のあらゆる場面でD&Iの価値を浸透させていくことが重要です。
また、D&I の実現には、政府の政策的支援も欠かせません。男女雇用機会均等法や障害者雇用促進法など、雇用の場におけるダイバーシティを促進する法制度の整備・強化が求められます。加えて、ワーク・ライフ・バランスの実現や、多様な人材の活躍を支える社会的インフラの整備など、包括的な施策が必要です。
D&I は、企業の競争力の源泉であると同時に、社会の持続可能性と公正性を高める上でも不可欠の課題です。の違いを尊重し、多様性を力に変えていくことは、私たち全ての責務と言えるでしょう。多様な人々が活躍し、その能力を存分に発揮できる社会の実現に向けて、産官学民が連携し、取り組みを加速していくことが求められています。

管理職の理解促進
管理職がダイバーシティに対する理解を深めることが、社内でのダイバーシティ・マネジメントの推進に必要です。
研修や教育を通じて、管理職がダイバーシティの重要性を理解し、社内での取り組みをサポートすることが重要です。
社員の意識啓発
社員がダイバーシティの重要性を理解し、社内での取り組みに積極的に参加することが、ダイバーシティ・マネジメントの成功に必要です。
社内での情報発信や共有、研修を通じて、社員がダイバーシティの推進についての理解を深めることが重要です。
コミュニケーションの促進
-異文化理解やコミュニケーションの促進を通じて、社員同士の交流を促進し、ダイバーシティの推進をサポートすることが重要です。

第14章 雇用問題解決に向けた政策提言

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